学童期の近視進行抑制に関するEBM
令和2年1月号の日本眼科学会雑誌に掲載された、長谷部聡先生(川崎医大)ご執筆の「学童期の近視進行抑制に関するEBM」という総説を紹介します。
EBMはEvidence-Based Medicineの略で、日本語では「根拠に基づく医療」です。
2000年に全世界の近視人口は13億人、強度近視の人口は1.6億人、
2050年にはそれぞれ49億人、9.4億人と増加。実に強度近視は5.8倍に急増するそうです。
強度近視では眼の長さが過剰に伸展し、網膜や脈絡膜に病的変化が生じ、黄斑変性、網膜剥離、緑内障などの失明につながる疾患の発生リスクが高まります。そのため、学童期の近視進行抑制が社会的急務です。
この総説では、これまで報告された種々の近視進行抑制治療を、EBMという観点から評価しています。
DIMS(Defocus Incorporated multiple Segment)レンズと言う特殊な眼鏡レンズは、すでに香港と中国本土で商品化されているとのことです。
DIMSレンズは、中央の近視を矯正するクリアゾーン(ピントがあって良く見える部分)を囲むように、直径1ミリの微小レンズ(+3.5ジオプタ)が約400個、等間隔で配置されています。
この2種類のレンズが、網膜にピントの異なる2つの映像を与えることで、近視進行が抑制されるそうです。
同様なレンズデザインのソフトコンタクトレンズ(DISC)は、欧州で市販されているそうです。
低濃度アトロピン点眼の近視抑制効果について検討した日本の7大学共同研究の結果は、治療薬としては不十分であったようです。
屋外活動が近視の発症を抑制することが報告されています。
さらに現在は、必要な屋外活動の時間、至適な光線強度や波長、屋外で行なうべき作業内容、さらに近視進行も予防可能かなどについても研究が続いているとのことです。
近視発症と近視進行の抑制は、眼科学にとって古くて新しい課題です。
古くから研究がなされており、かつ最近、にわかに研究報告が急増しています。
まだ確立された治療法がありません。今後も目を引く話題があれば、ブログで紹介したいと思います。
カテゴリー
- お知らせ (12)
- ブログ (438)
- iPS細胞 (19)
- IT眼症 (9)
- OCTアンギオ (8)
- アルツハイマー病 (7)
- アレルギー性結膜炎 (5)
- お困りごと解決情報 (17)
- こんな症状が出たら (35)
- サプリメント (14)
- スタッフから (5)
- ドライアイ (17)
- 中心性漿液性網脈絡膜症 (2)
- 人工知能(AI) (14)
- 加齢黄斑変性 (107)
- 外斜視 (1)
- 抗がん剤による眼障害 (2)
- 白内障 (22)
- 看護からのお知らせ (1)
- 眼精疲労 (12)
- 糖尿病網膜症 (51)
- 紫外線 (2)
- 紫外線、ブルーライト (6)
- 網膜前膜 (3)
- 網膜剥離 (16)
- 網膜動脈閉塞 (8)
- 網膜色素変性症 (7)
- 網膜静脈閉塞 (12)
- 緑内障 (29)
- 色覚多様性 (2)
- 講演会 (28)
- 近況報告 (83)
- 近視予防 (39)
- 飛蚊症・光視症 (15)
- 黄斑円孔 (4)
- 黄斑前膜 (3)
- 未分類 (10)
アーカイブ
最新の記事
- 2025.11.22
- 65歳以上の成人のための眼の健康情報
- 2025.11.16
- 「暗闇になじむまでが長い」はサイン? “暗順応”でわかる加齢黄斑変性の早期リスク
- 2025.11.8
- 内服薬で“黄斑”が傷む?最新研究が示した5つの要注意薬と上手なつきあい方
- 2025.11.1
- 網膜剥離は「防げる失明」:合図を知って、早く受診を
- 2025.10.26
- 「血糖だけ」じゃ足りない。低血糖も怖い: J-DOIT3が教える、網膜症予防の新常識
- 2025.10.17
- 点眼で加齢黄斑変性は治せる?最新研究が教えてくれる「期待」と「限界」
- 2025.10.11
- 散瞳検査と急性緑内障発作のリスク~瞳を広げる検査は安全なの?~
- 2025.10.3
- 飛蚊症や光が見えたら…「網膜剥離」になる前に知っておきたい目のサイン
- 2025.10.2
- 眼科疾患のリスク因子、診断・治療・予後の検討のための後ろ向き観察研究
- 2025.9.27
- 「進行は止められるのか?」─地図状萎縮の新治療と、患者たちの選択



理事長・院長