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内服薬で“黄斑”が傷む?最新研究が示した5つの要注意薬と上手なつきあい方

「薬の副作用で、目の“ものを見る中心(黄斑)”が傷むことがある」

そう聞くと不安になりますが、まず知ってほしいのは、正しい知識と定期検診で多くは早期に見つけて対処できる、という事実です。

今回はJAMA Ophthalmologyに掲載された漢陽大学(韓国ソウル市)からの大規模研究を解説します。

研究の概要:2つの巨大データで“シグナル”を確かめた

研究は二段構えでした。まず米FDAの副作用報告データ(FAERS)約1.6万件から、黄斑障害(maculopathy)に関連する可能性が高い内服薬を統計的に抽出。

次に、韓国の公的保険データ(全国民の約97%をカバー)で、その薬を飲む前と後で黄斑障害の起こり方がどれだけ増えるかを検証しました。方法としては、同じ人の“服用前後”でリスクを比べる自己対照デザインを用いて、年齢などで調整した堅実な解析がされています。

見つかった「5つの候補薬」

FAERSで上位に挙がり、韓国データでも検証対象になったのは次の5剤です。

・フィンゴリモド(商品名:ジレニア)多発性硬化症の薬

・アピキサバン(商品名:エリキュース)血栓予防薬

・パクリタキセル(商品名:タキソール・アブラキンサン)抗がん剤

・イブルチニブ(商品名:イムブルビガ)血液がんの分子標的薬

・シルデナフィル(商品名:バイアグラ)PDE5阻害薬

このうち、アピキサバン・パクリタキセル・イブルチニブ・シルデナフィルでは、服用“前”に比べ“後”で黄斑障害の発生率が明らかに増えました(罹患率比:アピキサバン3.08、パクリタキセル2.85、イブルチニブ3.71、シルデナフィル2.75)。フィンゴリモドは増加傾向は示したものの、対象数が少なく統計的には有意でない範囲でした(1.92)。

どんなタイプの黄斑障害が多い?

薬剤ごとに黄斑障害のタイプが違いました。

・フィンゴリモド・パクリタキセル:黄斑浮腫(むくみ)が目立つ

・アピキサバン・イブルチニブ:黄斑変性様の所見が多い

・シルデナフィル:浮腫・変性などが分散して報告

こうした薬ごとの黄斑障害の違いは、臨床現場での見落とし防止に役立ちます。

どれくらいの頻度で起こるの?

韓国データで累積発生率(使い始めてからのトータルの起こりやすさ)を見ると、薬によって差があります。

・アピキサバン:6か月1.2%、1年2.4%、最長追跡で15.7%

・イブルチニブ:最長追跡で9.9%

・パクリタキセル:最長追跡で6.6%

・シルデナフィル:最長追跡で6.0%

・フィンゴリモド:最長追跡で4.4%

「意外と高い」と感じるかもしれませんが、背景疾患(がんや血栓リスクなど)、年齢層、診断コードの拾い上げ方など、現実世界データならではの影響が重なっています。

“危険だから直ちに中止”という意味ではありません。 重要なのは「知って、見張る」ことです。

用量との関係

パクリタキセルとイブルチニブでは、累積投与量が多いほどリスク上昇がはっきり(ハザード比で用量–反応関係)。一方でアピキサバンは高用量群でやや上がる程度、フィンゴリモドとシルデナフィルは明確な増加パターンは見えにくい結果でした。つまり、薬ごとに“注意のポイント”が違うということです。

なぜ起こる? 

・血管透過性の変化:フィンゴリモド・パクリタキセルで浮腫が多いのは、毛細血管の漏れやすさに影響する可能性。

・網膜の代謝・循環の微妙なズレ:アピキサバン・イブルチニブ・シルデナフィルは黄斑変性様の所見が多く、微小循環や細胞ストレスの関与が示唆されます。

メカニズムは薬剤ごとに異なり、今後の基礎・臨床研究で解明が進むと考えられます。

ここが肝心:患者さんが取れる3つの備え

・目に自信があっても、内服開始前後で一度は眼底検査

できればOCT検査(網膜の断層撮影)を含むベースラインの記録を。比較対象があると小さな変化を早期に見つけられます。

・見え方の変化メモをつける

かすみ、中心がにじむ、直線が波打つ、夜に見づらい:些細でも開始時期・左右差と結びつけてメモ。受診時に診断がスムーズです。

・勝手に中止しない

これらの薬はがんや血栓予防など命に関わるメリットが大きいケースが少なくありません。必ず主治医と相談し、眼科と併走で最適解を探しましょう。

医療者向けの要点(一般の方向けにも参考)

・ハイリスク群の把握:高齢、長期/高用量、基礎疾患で黄斑脆弱性がある方は要注意。抗がん剤やBTK阻害薬ではコースごとのOCT検査が実務的。

・薬剤ごとの黄斑障害のパターンを念頭に:浮腫型が多い薬では中心窩の厚み、変性様が多い薬では小さな萎縮や色素上皮の変化に目を凝らす。

・診療連携:処方科に簡潔な所見サマリを返すと、用量調整や切り替え判断がスムーズになります。

研究の限界も知っておこう

・副作用報告(FAERS)は“見つけの網”が粗い:過小報告や偏りがあります。

・保険データは“コード”で見ている:実際の画像所見での再確認が必要。

・韓国集団での検証:日本人にそのまま当てはめられるかは、今後の追試が望まれます。

それでも二段階の検証で一貫して黄斑障害が起こりやすい薬剤が確認された価値は大きく、「疑わしい薬剤の“目の見張り”を強化しよう」というメッセージは揺らぎません。

まとめ:恐れすぎず、備えを賢く

この研究は、「いくつかの全身薬で黄斑障害のリスクが上がる」という現実と、「薬ごとに起こり方が違い、定期チェックで早期発見できる」という希望の両方を示しました。私たちが目指すのは、“薬の恩恵”と“目の安全”の両立です。

・服用予定や服用中の方は、一度は眼底+OCTでベースライン作成。

・見え方の変化に気づいたら、早めの受診と主治医への共有。

・医療者は、薬剤別のリスク特性を意識し、用量や期間に応じたモニタリングを。

当院でも、処方医と連携しながら目にやさしい薬物治療の設計をお手伝いします。気になる方は、まず黄斑チェックからご相談ください。

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