眼科疾患のリスク因子、診断・治療・予後の検討のための後ろ向き観察研究
2025.10.2 お知らせ
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これまで「治療法はない」とされてきた萎縮型加齢黄斑変性(AMD)に、ようやく新たな治療選択肢が登場したことを前回ご紹介しました。
今回は、イギリスの患者153名を対象に行われた研究がJAMA Ophthalmology電子版に掲載されましたのでご紹介しながら、
「治療を受ける・受けない」の選択において、患者が本当に重視していることについて考えてみます。
地図状萎縮(GA)は、萎縮型AMDに認められる病変で、
網膜の中心部(黄斑)の組織が徐々に薄くなり、視野の中心が抜ける・ゆがむ・見えづらくなるといった症状が出ます。
ゆっくりと進行、痛みはない、でも一度失われた視細胞は戻らない
という特徴をもち、高齢者の「読めない」「顔がわからない」といった生活の質(QOL)を大きく下げる原因となります。
そんな中で登場したのが、C5という補体(免疫の一種)をブロックする薬です。
アイザベイ(IZERVAY)はこのC5阻害薬のひとつで、月1回、目の中に注射する治療が基本です。
ポイントは以下の通り:
・GAの進行を「完全に止める」ことはできないが、進行をゆっくりにできる
・視力が「回復する」わけではない
・長期的に視力を“保つ”ことが期待される
つまり、“目の老化”に対してブレーキをかける薬だと考えてください。
イギリスで行われた今回の研究では、地図状萎縮の患者153名に「この治療を受けたいか?」と聞いたところ…
・53%が「非常に受け入れられる」と回答
・29%が「まあまあ受け入れられる」と回答
・合計82%の人が前向きな反応を示したのです
これは、かなり高い数字です。
しかも、治療効果としては「進行を少し遅らせるだけ」と伝えた上での回答です。
この研究では、患者さんの「気持ち」を詳しく分析しています。
その中で、治療を受けたいと思う人には共通する特徴がありました。
・「この治療で視力が長持ちする」と信じている
・「通院できる」と自分に自信がある
・「今の生活を守りたい」という気持ちが強い
つまり、たとえ視力が回復しなくても、
“いま見えている視力を少しでも長く維持したい”という希望が、治療を受けるモチベーションになっているのです。
もちろん、治療を受けたくないと考える人もいます。
この研究では、以下のような傾向が見られました。
・視力がまだ良い人ほど、治療への関心が低い
・通院に時間がかかる人は、負担を感じている
・「治るわけではないのに注射?」と感じる人も少なくない
また、注射の不快感、通院に伴う家族の負担、血管新生型AMD発症リスクへの不安なども、受け入れにくさの要因となっていました。
この研究が教えてくれることは、
「治療を受ける・受けない」その判断を支えるのは、“医学的なデータ”だけではないということです。
・自分の将来をどう思うか
・治療の仕組みに納得しているか
・通院や生活にどんな影響があるか
こうした患者本人の価値観が、最終的な意思決定に大きな影響を与えています。
だからこそ、医療者には
・「この治療で何ができて、何ができないのか」
・「リスクと期待のバランス」
・「患者さんごとの不安や希望」
について、丁寧に説明し、対話する姿勢が求められているのです。
日本でも“その選択”が、はじまります。
冒頭でご紹介した通り、C5阻害薬(アイザベイ)は2025年末には日本でもついに現場での使用が可能になりそうです。
これにより、日本でも「治療を受けるかどうか」という新たな選択肢が生まれます。
それは「やるか・やらないか」だけの問題ではなく、「どう向き合うか」という、生き方にかかわる選択でもあります。
進行を遅らせるだけの治療。
でも、それが「見える明日」を支えてくれるかもしれません。
私たち医療者は、その選択をサポートする存在でありたいと願っています。