糖尿病では網膜症の発症前に、何が起きているのか
糖尿病は、血糖値が高くなる病気として知られていますが、実は目にも静かに影響を及ぼします。多くの方が「糖尿病網膜症」と聞くと、眼底出血や視力低下といった“目に見える変化”を思い浮かべるかもしれません。
しかし最近の研究(Ophthalmology Science 2025;5:100870)から、眼底検査で異常が出るずっと前から、網膜の神経はダメージを受け始めていることがわかってきました。
このような状態は「糖尿病性網膜神経変性」と呼ばれ、視力が保たれていても、実は“見える力の質”が少しずつ低下している段階です。
今回ご紹介する研究では、血液中の「スフィンゴミエリン」という脂質に注目しました。スフィンゴミエリンは、体中の細胞膜、特に神経細胞を支える重要な成分です。
研究では、健康な人・糖尿病予備群の人・糖尿病の人を含む約3,600人を対象に、
・血液中のスフィンゴミエリンの量
・目の神経の状態として、角膜神経線維長や網膜各層の厚みの計測
・視野検査による「網膜の感度(どれだけ細かく光を感じ取れるか)」
を詳しく調べました。
わかったこと①:糖尿病の前から変化は始まっている
その結果、スフィンゴミエリンは、糖尿病の人だけでなく、糖尿病予備群の段階からすでに低下していることがわかりました。
スフィンゴミエリンは細胞膜を作る成分であると同時に、神経細胞同士の情報伝達機能や神経細胞内の情報伝達に関与する脂質ですので、その低下が網膜神経機能障害をもたらすと推測されます。
つまり、「まだ糖尿病と診断されていないから安心」とは言い切れないことを示しています。
わかったこと②:網膜形態は正常でも、機能は低下している
さらに重要なのは、網膜の断層検査(OCT)で見る網膜の厚みには大きな異常がない段階でも、視野検査で測る“網膜の感度”は低下していたという点です。
これは、
・見た目の網膜形態は正常
・でも実際には、網膜の神経細胞の働きが少し弱っている
という状態が、かなり早い時期から起きていることを意味します。
なぜこの研究が大切なのか
この研究の大きな意義は、採血だけで、網膜神経細胞の変化を察知できる可能性を示した点にあります。
これまで糖尿病の目の異常は、眼科で検査しなければ分かりませんでした。しかし将来的には、
・健康診断の血液検査
・内科での糖尿病管理
の中で、目のリスクを早めに知ることができるかもしれません。
早く気づくことが、目を守る第一歩
糖尿病による目の病気は、「見えなくなってから治す」のはとても難しい病気です。
だからこそ、
見え方が変わる前に、体の中のサインに気づくこと
が何より大切です。
今回の研究は、糖尿病と目の関係を「血管」だけでなく「神経」や「脂質代謝」という新しい視点から捉え直す、大きな一歩といえるでしょう。