網膜剥離は「防げる失明」:合図を知って、早く受診を
網膜剥離(裂孔原性網膜剥離)は、網膜に生じた“裂け目(穴・裂孔)”から眼の中の液体(硝子体液)が裏側に流れ込み、網膜がはがれてしまう病気です。
はがれた範囲や中心(黄斑)が巻き込まれると視力低下や失明につながることも。しかし朗報があります。多くの網膜剥離は、剥離に至る前の「網膜の裂け目」を見つけて外来レーザーで治療すれば、網膜剥離の発生を予防できるのです。
まず知っておきたい:この症状が「合図」です
網膜の裂け目(網膜裂孔)ができると、次の片目だけの自覚症状が出やすくなります。ひとつでも当てはまれば、その日のうちに眼科へ。
・突然の飛蚊症(黒い点・糸くずが増えた、煙のように漂う)
・光視症(暗い所でピカッと光る、稲妻のような閃光)
・かすみ・見えにくさ(特に片目だけ)
これらは生理的な後部硝子体剝離でも起こりますが、7〜14%で網膜裂孔が見つかるという報告もあります。
網膜裂孔が出来てから網膜剥離に至るまで数日〜数週の猶予があることが多いため、この間に見つけてレーザーで網膜光凝固すれば、93〜96%が網膜剥離を防げるとされます。ためらわず受診することが、視力を守る何よりの近道です。
放っておくと何が起こる?
網膜剥離の手術(とくに現在主流の硝子体手術)は高い成功率を誇りますが、術後数日間の体位保持(座位や側臥位、うつむき姿勢など)や活動制限、目の中を空気などの気体で満たすために一時的な視力低下が避けられません。だからこそ「網膜剥離になる前に封じる」価値が大きいのです。
だれがなりやすい?(主なリスク)
・近視:強いほどリスク上昇
・年齢:発症は50〜70代に多く、男性にやや多い
・格子状変性:周辺部網膜の網膜が薄くほころびやすい網膜病変を有する目
・ケガ:打撲などの眼外傷
・反対眼が網膜剥離:もう片方の目にも注意が必要
・家族に網膜剥離の人がいる、遺伝性の網膜硝子体疾患がある場合
予防の柱は「教育」と「診断の質」
症状教育
“突然の飛蚊・閃光・片目の見えにくさ”は眼科へ直行を社会の常識に。実際、受診の遅れは珍しくなく、ある報告では網膜剥離の発症から網膜硝子体疾患を専門とする眼科医への受診まで7日以上かかり、手術まで14日というデータも。
黄斑が剥がれる前に診断できれば、その後の見え方が大きく違います。
診断の質(周辺部まで見にいく)
網膜裂孔は眼のいちばん端(周辺部)に小さく隠れていることがあり、散瞳し周辺部網膜までしっかり観察する検査が大切です。
眼内に出血があり眼底観察が困難な時は超音波(B-scan)検査が助けになります。初診で裂孔が見つからない後部硝子体剥離例でも、硝子体出血や「タバコダストサイン(眼内の茶色色素の浮遊)」があれば再診を。症状がぶり返したら、予約を待たず再受診を。
レーザーで網膜光凝固って?
危険な網膜裂孔の周囲にレーザーを2〜3列並べ、網膜とその下の組織の癒着を強くして、目の中の液が網膜の裏へ回り込まないよう封じます。
外来で短時間・低侵襲の治療です。裂孔の種類(馬蹄状裂孔、牽引の残る円蓋裂孔、出血を伴う裂孔など)や既往、対側眼の状況によって適応が決まります。
治療後数か月以内に新しい裂孔が出ることがあるので、計画的なフォローも必要です。
ケガによる網膜剥離を減らすには
野球、テニス、ラクロス、アイスホッケー、格闘技、バスケ、サッカーなど、眼に当たりやすい競技や危険作業では保護具を。
受傷後に飛蚊・閃光・かすみが出たら、すぐ眼科へ。「救急・内科・小児科」など眼科以外の医療者にも、眼外傷後の眼底チェックを広く啓発することが大切です。
今日からできるセルフチェック&行動
・症状が出たらすぐに受診:片目だけの飛蚊・閃光・見えにくさは迷わず眼科へ。
・スマホで“見え方メモ”:発症時刻、どんな見え方か、増えた/強くなったを記録。診断の助けに。
・強い近視・家族歴がある人は年1回の精密検査:散瞳検査で周辺部までチェック。
・スポーツは保護眼鏡で“守りを固める”:競技規定に合ったものを選びましょう。
・白内障手術後も油断しない:見え方の変化はすぐ相談を。
まとめ:合図を知り、迷わず受診。これがいちばんの「予防対策」
網膜剝離は、症状のサインを知って、早く受診すれば防げる失明です。
外来レーザーで裂孔を封じるだけで、手術や長期の回復を避けられる人が少なくありません。
飛蚊・閃光・片目のかすみ——この3つを覚えて、家族や職場・チームでも共有してください。見え方に違和感を覚えたらすぐに眼科受診を。あなたの視力を守る対策です。
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理事長・院長