「加齢黄斑変性」と“炎症”の深い関係
年齢を重ねると誰にでも起こり得る「目の老化」。その中でも、視力を大きく低下させる原因の一つが「加齢黄斑変性(AMD)」です。これは網膜の中心にある「黄斑」という部分が障害される病気で、特に進行した「新生血管型AMD(nAMD)」では、新生血管(異常な血管)が網膜に入り込み、視力が急激に低下します。
現在、この新生血管の成長を抑える「抗VEGF注射」が主な治療法ですが、稀に治療に抵抗性を示す患者さんがおられます。では、なぜ同じ治療をしても効果に差が出るのでしょうか?
ケモカインとは、体内の「炎症」を誘導するタンパク質の一種です。たとえば、風邪をひいた時に白血球が炎症のある部分に集まるように、ケモカインは“免疫細胞のナビゲーター”の役割をしています。
実はこのケモカイン、年をとると体内での働き方が変わってきて、軽い慢性炎症を引き起こしやすくなるといわれています。これが、AMDの進行にも関与している可能性があるのです。
研究では、AMDの患者さんの血液中にあるケモカインやその“受け皿”である受容体(レセプター)の数を詳しく調べました。そして「治療がよく効いた人」と「治療しても視力が改善しなかった人」とを比較しました。
その結果、こんなことがわかりました:
・抗VEGF治療が効きにくい人では、ケモカインに反応する免疫細胞の量が少なかった。
・特に「CXCR3」「CCR2」「CCR5」といったケモカイン受容体を持つ細胞が少ない人は、治療の効果が出にくい傾向がありました。
・逆に治療がよく効いた人では、これらの細胞のバランスが比較的保たれていました。
これらの結果は、単に治療薬が合うかどうかだけではなく、その人の“体内の炎症環境”も治療効果に関係している可能性を示しています。
さらにこの研究では、「CFH」や「ARMS2」という遺伝子の違いも調べられました。これらはAMDのリスクを高めることで知られている遺伝子ですが、今回、これらの“リスク型”を持つ人では、ケモカインの値に違いが見られました。
つまり、生まれつき持っている体質(遺伝)も、体の炎症反応や治療の効き目に影響を与えている可能性があるのです。
この研究は「今すぐ新しい治療が始まる」という話ではありませんが、将来的には、ケモカインを調節する薬が登場するかもしれません。たとえば、「抗VEGFが効きにくい人」には、ケモカインのバランスを整える治療を組み合わせることで、より良い効果が得られる可能性があるのです。
また、血液中のケモカインの量を測ることで、「この人には治療が効きそうかどうか」を事前に予測できるようになる未来も期待されます。
加齢黄斑変性は、視力に直結する病気です。現在の治療法でうまくいく人もいれば、そうでない人もいますが、今回の研究は、私たちの体の「炎症」と「免疫のバランス」が治療結果に関係していることを教えてくれました。
「自分に合った治療を受けられる未来」――そのためには、こうした研究の積み重ねが欠かせません。今後の新しい治療開発に、期待が高まります。
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