「近視」と血液の関係？ 血中成分からわかる“近視のなりやすさ”？

• 2025.5.21
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• 近視予防

近視は、いまや世界人口の約4人に1人が抱える視力の問題です。特にアジアの子どもや若年層に多く、近視が進と網膜剥離や緑内障など、失明のリスクも高まります。しかし、そもそも「どうして近視になるのか」ということについては、未だ未解明です。

今回ご紹介する論文は、カナダとイギリスの大規模データを用いた中国の大学が行った研究で、血液中の“代謝物”が近視の原因とどう関わっているのかを探った世界初の試みで、Ophthalmology Scienceに掲載されました。

この研究は、「メンデルランダム化（Mendelian Randomization」という手法を使いました。これは、遺伝子の違いを自然な“実験”と見なして、因果関係を推定する方法です。

具体的には、

・カナダの8,299人の血液中に含まれる約1400種類の代謝物（食事や体の代謝によってできる物質）を測定

・イギリスの約46万人のデータから「近視」との関連を調査

という2つの巨大データを組み合わせて分析しました。

研究の結果、次のような代謝物と近視の“なりやすさ”との因果関係が確認されました。

近視を予防する可能性がある代謝物は、

・1-arachidonoyl-GPE：脂質の一種で、抗炎症作用のある「エンドカンナビノイド系」に関係しています。網膜の神経を保護する働きも期待されています。

・Linoleoyl-arachidonoyl-glycerol：こちらも脂質関連で、細胞膜の安定化や視細胞の機能維持に関わっている可能性があります。

逆に、近視リスクを高める代謝物や比率は、

・ビタミンA（レチノール）と脂質の比率：一見健康そうに思えるビタミンAですが、ある脂質との比率が高すぎると、逆に近視のリスクが高まる傾向が見られました。

・リン酸との比率や、アルギニン関連物質との比率：これらは血管や炎症に関わる経路と考えられており、視神経や網膜への影響が懸念されます。　　

これまでの近視研究は、「読書やスマホの時間が長いと近視になる」といった“行動”に注目してきました。しかしこの研究は、遺伝的な代謝物の傾向が、近視そのものに影響を与えることを示しています。

今回の結果は、

・血液検査で将来の近視リスクがわかる可能性

・代謝異常をターゲットにした新しい治療法の開発

・生活習慣（食事や運動）を見直す科学的根拠の一助

など、眼科だけでなく、内科や栄養学との“橋渡し”となる重要な成果です。

この研究は非常に先進的ですが、以下のような課題もあります。

・対象は主に白人（ヨーロッパ系）で、日本人などへの応用には追加研究が必要

・近視が代謝物に影響している可能性（因果の逆転）も排除できない

・“治療”への応用には、さらなる動物実験や臨床試験が必要

とはいえ、この研究は近視における「血液マーカー」の可能性を世界で初めて本格的に示しました。今後の予防医学や個別化医療への貢献が期待されます。

将来は、血液検査での近視リスク予測や、食事・薬による予防が実現するかもしれません。今後の研究の広がりに期待したいと思います。

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