「見える時間」を、少しでも長く―地図状萎縮の治療と検査の進歩
好きな本を読む。旅先の景色を楽しむ。大切な人の顔を見る。
そんな日々を、これからも続けていきたい。目の治療を考えるとき、私が大切にしたいのは、視力の数字だけでなく、その先にある暮らしです。
7月21日、アステラス製薬主催の全国WEBシンポジウムで、地図状萎縮の治療について講演しました。

1,000人近くの眼科医の先生方にご視聴いただいたと伺っています。講演でお伝えしたかったのは、「今の見え方を、少しでも長く守りたい」という願いに、私たちはどう応えられるかということでした。
「治す」だけではない、治療の意味
加齢黄斑変性には、網膜の細胞が少しずつ失われる「萎縮型」があります。その進行した状態の一つが「地図状萎縮(ちずじょういしゅく)」です。
ものを見る中心部分が見えにくくなり、読書などの日常生活にも影響します。一度失われた網膜の細胞を、現在の治療で元に戻すことはできません。
この病気に、日本でも進行を抑える薬「アイザベイ」という治療の選択肢が生まれました。
ただし、失った視力を回復させる薬ではなく、萎縮の広がりを遅らせることを目的としています。
進行を完全に止める薬でもありません。臨床試験で確認されたのは主に萎縮の拡大を遅らせる効果であり、「今の見え方が何年保てる」と約束できるものではありません。
それでも、残っている網膜をできるだけ大切にし、これからの暮らしを支えたい。私はその目標を、「見える時間を守る治療」と表現しました。
病変の「周り」にも目を向ける
治療だけでなく、病気の状態を調べる研究も進んでいます。
2026年、眼科の学術誌『Ophthalmology Science』に発表された研究では、地図状萎縮の臨床試験で得られた画像を、AIを使って詳しく解析しました。
注目したのは、萎縮した部分と、その周りにある「視細胞」の変化です。
視細胞とは、光を感じる細胞のことです。
研究では、特殊な眼底写真で見える病変周囲の模様だけでは、視細胞の障害がどのくらい広がっていくかを、十分に見分けられませんでした。
一方、網膜の断面を撮る「OCT(光干渉断層計)」という検査で、萎縮の外側に広がる視細胞の変化を捉えることが、今後の進み方を考える手がかりとして期待されています。
私がこの研究から大切だと感じたのは、「すでに失われた部分の大きさ」だけでなく、「その周囲で何が起きているか」にも目を向けることです。
ただし、これはアイザベイとは別の薬「ペグセタコプラン」の試験データを解析した研究です。
アイザベイの効果を直接示したものではなく、検査だけで将来の見え方や最適な治療を確実に判断できる段階でもありません。今後の検証が必要です。
患者さんと、一緒に考える
新しい治療があるからといって、すべての方が同じように治療を始めるわけではありません。
継続的な眼内注射が必要で、通院や費用の負担などへの考慮も必要です。
だからこそ、目の状態だけでなく、生活の中で大切にしていること、通院を支えるご家族の状況、ご本人の希望を伺いたいと思っています。
期待できることと限界をお伝えし、治療するかどうかも含めて、一緒に考えていきます。
「見える時間」を守ることは、その人らしく過ごす時間を大切にすること。
新しい知見を学びながら、一人ひとりの暮らしに向き合う診療を続けてまいります。
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理事長・院長