管楽器を吹くと眼圧が上がる?
トランペットやサックスを吹いているとき、目の中では何か変化が起きているのでしょうか。
少し意外なテーマですが、管楽器の演奏と「眼圧」の関係は以前から研究されています。眼圧とは、文字どおり眼球の中の圧力のことです。健康な目でも一日の中で多少変動しますが、緑内障では病気の進行に関係する重要な要素の一つです。
米国眼科学会の機関誌 Ophthalmology に、若いプロの音楽家を対象として、楽器を演奏している最中の眼圧を調べた興味深い研究が掲載されました。
研究に参加したのは63人の音楽家です。34人がフルート、クラリネット、サックス、トランペット、ホルンなどの管楽器奏者、残る29人はバイオリン、チェロ、ピアノ、打楽器などの奏者でした。
研究者たちは携帯型の眼圧計を使い、「演奏前」「低い音を演奏しているとき」「高い音を演奏しているとき」「演奏終了後」の4回、眼圧を測定しました。
結果はなかなか興味深いものでした。
管楽器奏者の眼圧の中央値は、演奏前が17.5 mmHg、低音演奏中が18.0 mmHg、高音演奏中には19.5 mmHgとなり、演奏後は15.0mmHgでした。
一方、管楽器以外の奏者では、演奏前が17.0 mmHg、低音演奏中が16.0 mmHg、高音演奏中は15.0 mmHg、演奏後は15.0mmHgでした。
特に高い音を吹いているとき、管楽器奏者の眼圧が明らかに高くなることが確認されました。演奏前には両者の眼圧に差がありませんから、普段から管楽器奏者の眼圧が高いということではありません。
では、なぜ管楽器を吹くと眼圧が上がるのでしょう。
まず思いつくのが、息を強く吹き込むためではないか、ということです。そこで研究者たちは管楽器を、吹くときの抵抗が大きいものと小さいものに分けて比較しました。
ところが、両者の眼圧変化には明らかな差がありませんでした。トランペットなど抵抗の大きい楽器だから特に眼圧が上がる、という単純な話ではないようです。
もう一つ、これまで原因として考えられてきたのが「バルサルバ法」です。
重い物を持ち上げるときなどに、息を止めて「ウッ」と力を入れることがあります。このような動作では胸の中の圧力や静脈圧が上昇し、それに伴って眼圧も上がることがあります。管楽器の演奏中にも、知らず知らずのうちに同じことが起きているのではないかと考えられていました。
今回の研究が面白いのは、眼圧を測るのと同時に、演奏中の鼓膜を動画で観察したことです。バルサルバ法が起これば、中耳の圧が変化して鼓膜が動くはずです。
ところが、低い音でも高い音でも、管楽器奏者にバルサルバ法を示す明らかな鼓膜の動きは確認されませんでした。
つまり、管楽器演奏中に眼圧が上昇することは確かだが、その理由は単純な「いきみ」ではなさそうだ、というのが今回の研究から分かったことです。
もっとも、管楽器を演奏する方が心配する必要はありません。
今回認められた眼圧上昇は一時的なもので、演奏終了後には低下しています。
また研究対象は平均21歳ほどの若い音楽家で、緑内障のある人は研究から除外されています。そのため、この研究から「管楽器を吹くと緑内障になる」と結論づけることはできません。
一方で、すでに緑内障や高眼圧症がある方が、長年にわたり毎日何時間も管楽器を演奏した場合に、この小さな眼圧変動の積み重ねがどの程度影響するのかは、まだ十分に分かっていません。
眼圧はいつも一定ではありません。時間帯だけでなく、運動や姿勢、呼吸などによっても変化します。そして今回の研究から、音楽を奏でている間にも、私たちの目の中では小さな変化が起きていることが分かりました。
管楽器を楽しんでいる方は、演奏を控える必要はありません。ただ、緑内障などで眼科に通院している方なら、「管楽器を長時間演奏しています」と診察の際に一言伝えておくとよいでしょう。
音楽と目。一見離れているように見える二つの世界ですが、調べてみると意外なところでつながっているものです。
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理事長・院長