新生血管型加齢黄斑変性の治療間隔ってどうやって決めてるの?
最近の新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)治療では、眼内注射の間隔を患者さんごとに調整する「Treat and Extend(TAE)」という治療スタイルが主流になっています。
「病状が落ち着いているので、注射の間隔を3ヶ月1に延ばしましょう」とか、「少し滲出液が増えてきましたので、2ヶ月に戻しますね」といったように、治療間隔は「病気の活動性」によって柔軟に決められています。
では、この「活動性」はどうやって判断しているのでしょうか?
この研究では、下記の2つの大きな臨床試験の比較を行っています。
TENAYA/LUCERNE試験(ファリシマブという薬を使った試験)
→ 「視力の変化または光干渉断層計(OCT)所見の変化」があれば“病気活動あり”と判断
PULSAR試験(アフリベルセプト8mgを使った試験)
→ 「視力の変化かつOCT所見の変化」が揃ってはじめて“病気活動あり”
たとえば、「少し滲出液が増えたけど、視力は安定している」という場合、
TENAYA/LUCERNEでは「活動性あり → 注射間隔を延ばさない」
PULSARでは「活動性なし → 注射間隔を延ばしてOK」 となります。
本論文の研究者たちは、TENAYA/LUCERNEのデータを使って、
もし「PULSARと同じ基準(AND条件)」を使っていたら、注射間隔がどう変わったかを調べました。
その結果、
実際のTENAYA/LUCERNEでは、78%の人が「12週以上の間隔」に到達、
もしPULSAR式の判断をしていたら、実に96%の人が12週以上になりました。
「病気の活動性」をどう定義するかによって、投与間隔が違ってくるというわけです。
さらに、TENAYA/LUCERNEの患者で「活動性あり」とされた患者(約120人)を詳しく調べてた結果、
76%がOCT上の滲出液の増加のみで活動性と判断され、視力低下があった人はわずか29%でした。
つまり、多くのケースでは、視力は落ちていないけれどOCT所見の悪化(網膜の中での病状の進行を意味します)が認められたという状況です。
このようなケースは、日常の臨床現場でもよくあることです。
では、なぜ視力だけでは判断できないのでしょうか?
視力はとても大切な指標ですが、短期間では大きく変化しにくいこともあります。
また、たとえ視力が良好でも、OCTで滲出液がたまっている状態を放っておくと、後から視機能が悪化する可能性があることがわかってきています。
そのため、多くの専門医は「視力よりもOCTでの変化」を重視して治療を継続します。
今回の研究でも、「視力変化+OCT所見」の両方を求めるPULSAR式の判断は、 実臨床とはやや離れていると指摘されています。
当院では、加齢黄斑変性の治療方針を「見た目の安定」と「見え方の維持」の両方を考えて決めています。
視力が変わらなくても、OCTに変化があるときには再治療を検討し、
患者さんの生活スタイルや通院状況も考慮して、最適な注射間隔を一緒に考えていきます。
眼内注射を減らしたい気持ちは誰もが持っています。
でも、「間隔を延ばす」ことと、「視力を長く守る」ことのバランスがとても大切です。
今回の研究は、そうした判断の根拠や背景を、私たち医療者だけでなく患者さんにも知っていただくための、とても良いヒントになると思います。
今後も、科学的な知見をわかりやすくお伝えしながら、皆さんの目の健康を守っていければと思っています。
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