ポリープ状脈絡膜血管症と渦静脈
ポリープ状脈絡膜血管症(PCV, Polypoidal Choroidal Vasculopathy)は、黄斑新生血管の一種で、網膜色素上皮下に網状の異常血管が形成され、その末端にポリープ状の血管が発生する疾患です。加齢黄斑変性(AMD)の亜型とされ、アジア人に多く、脈絡膜の血管が拡張し、脈絡膜が厚くなるパキコロイド(pachychoroid)と関連すると報告されています。
渦静脈は脈絡膜から血液を目の外に排出する主要な静脈で、各眼に4〜6本ほど存在しています。渦静脈の血流障害がパキコロイドの病態形成に関与している可能性が示唆されています。
本研究ではPCV患者77名80眼を対象に、広い範囲の撮影が可能な光干渉断層計検査(OCT)と蛍光眼底造影検査を用いて、ポリープ状病変の位置と渦静脈排出領域との関係を調査しました。
その結果、渦静脈の流出上流部にポリープ状病変が集積していること、渦静脈が鼻側と耳側で非対称性がある眼では、より多くの血流排出を担っている側の渦静脈流域にのみ病変が存在することが明らかとなりました。
研究結果から以下の点が考えられます。
・渦静脈の血流排出が一方に偏ることで、血流排出を担っている側の流域では血液の流れが滞留しやすくなり、局所的な静脈圧の上昇が起こり、その結果、PCVの特徴であるポリープ状の血管病変が形成される。
・渦静脈の血流排出が一方に偏ることで、血流排出を担っている側の渦静脈流域では、脈絡膜血管が拡張し、脈絡膜の厚みが増す。
・眼球の血流が一部の渦静脈に集中すると、血液の排出効率が低下し、新生血管の異常増殖を誘発する可能性がある。
本研究は、渦静脈血流異常がPCV発症の重要な要因である可能性を示唆しており、PCVの病態理解を深め、今後の治療指針となる可能性があるのではと思います。
例えば、渦静脈の拡張や血流のうっ滞を評価し、血流異常の程度に応じた治療戦略を立案できるかもしれません。
また、今後、渦静脈の血流を改善する新たな治療薬の開発が進めば、病態ごとの細分化がさらに進み、個別化医療の精度が向上することも考えられます。
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