論文がJpn J Ophthalmolに受理されました
当院での診療成績をまとめた論文が、日本眼科学会の英字機関誌Jpn J Ophthalmolへの掲載が受理されました。
論文標題はInvestigation of satisfaction with short-term outcomes after switching to faricimab to treat neovascular age-related macular degeneration(治療薬をファリシマブに変更した滲出型加齢黄斑変性患者の治療に対する満足度調査)です。
滲出型加齢黄斑変性は、黄斑部(網膜の中央部)に脈絡膜から網膜に向かって、絡膜新生血管という正常とは異なる血管が生える病気です。
脈絡膜新生血管からの出血や血液成分の滲み出しによる黄斑部網膜のむくみなどのために、視野の中心部が暗く見えたり、物が歪んで見え、視機能の低下が進行します。
滲出型加齢黄斑変性の治療は主に、脈絡膜新生血管の成長を活発化させるタンパク質の働きを抑制する薬剤を眼内に繰り返し注射する治療法が行われています。
注射自体はあっという間に終わりますので、外来で受けられます。
基本的な治療スケジュールは、まず1か月に1回のペースで連続3〜4回、薬剤を眼内に注射します。その後は、1か月~数か月ごとに病状を確認しながら注射を継続し、病状の安定化を図ります。
本治療で視機能の維持改善が期待できるのですが、治療を中断すると病状が再燃し治療前の症状に戻ってしまうことがありますので、長期の継続治療が必要です。
本治療が登場して10数年が経ちましたので、治療効果が長持ちする薬剤が開発され、注射の間隔が延長し注射や通院回数が減ることで、患者様や付き添うご家族への負担を減らす取り組みが行われています。
今回の研究対象となったファリシマブは、昨年5月に滲出型加齢黄斑変性に対する治療薬として認可され、従来の薬剤と比べ投与間隔の延長が期待できることが報告されています。
今回の研究では、滲出型加齢黄斑変性の治療経過中に、薬剤をファリシマブに変更し6ヶ月以上が経過した48例を対象としました。
その結果、41例(85.4%)で投与間隔を延長することが出来ました。
治療に対する患者様の満足度については、投与間隔が1ヶ月以上延長できたり、良好な視機能を維持していることが満足度を高めることが確認されました。
患者様の満足度が治療の継続につながることが報告されていますので、薬剤の投与間隔を延長させ、通院や薬剤投与による患者様の負担を減らしながら良好な視機能を維持することで、治療の途絶を防ぎ、長期的な視機能維持につながると考えられます。
実際の診療現場からのデータの積み重ねが患者様の利便性を向上させ、治療成績の改善させ、患者様の視機能維持や生活の質の維持につながるものと思います。
さらに診療現場からのデータが、新たな治療法の創出を生み出す原動力になると考え、日々診療を行っています。
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