治療の必要な飛蚊症について
1月29日から30日にかけて、発達した低気圧が北海道に接近・通過しました。
この影響で、北海道は各地で吹雪となりました。
札幌では一時期雪が溶け路面が露出していたのですが、今回の積雪ですっかり白銀に戻ってしまいました。
白銀の雪や青空、明るい所を見つめた時に、自覚されやすい症状として飛蚊症(ひぶんしょう)があります。
飛蚊症は、目の前に糸くずやタバコの煙のような影が動いて見える症状です。目を動かすと、影も移動します。
硝子体(しょうしたい)は眼球内の後方2/3を占めるスペースの名称で、このスペースに硝子体ゲルと呼ばれる生卵の白身のような透明でゼリー状の物質が詰まっていて、光が網膜まで届くための通り道となっています。
光の通り道である硝子体に混濁物があると、混濁物の影が網膜に写り、この影が飛蚊症の症状を引き起こします。
硝子体に浮遊する混濁物は硝子体線維や炎症細胞、出血、血管から染み出した血液成分など、飛蚊症の原因により異なります。
混濁物の色や形、数や大きさは様々ですので、ひと口に飛蚊症と言っても、自覚する影の様子は様々です。
飛蚊症は、多くの場合、硝子体の加齢性変化によるものですので、治療を必要としませんが、
病気の徴候として現れることがあり、特に突然生じた飛蚊症は早急な検査が必要です。
硝子体の加齢性変化は、硝子体ゲルが水っぽくなる、液化です。
硝子体の液化によって、硝子体の中に線維の混濁物が浮遊するようになり、飛蚊症を引き起こします。
硝子体の液化は年齢とともに進むのですが、近視が強い方や強く目をぶつけたことがある方、糖尿病の方などでは液化の進行が早い傾向にあります。
硝子体の液化が進行し硝子体ゲルが収縮すると、本来は網膜と接着している硝子体ゲルが網膜から剥がれる現象(後部硝子体剥離)が、或る日突然起こります。
後部硝子体剥離が生じると、視神経と硝子体を接着させていた輪状の線維組織が硝子体の中を浮遊するため、濃い影が動いて見えるようになります。
後部硝子体剥離による飛蚊症は、当初は影が濃いため煩わしさや不安を強く感じるのですが、経過に伴い影は徐々に淡くなっていきます。
後部硝子体剥離は硝子体の液化と同様に加齢による現象なので、本来は加療の対象にはなりませんが、後部硝子体剥離が生じる際に、数パーセントの頻度で網膜裂孔ができると報告されています。
網膜裂孔が発生し放置すると、裂孔原性網膜剥離(いわゆる網膜剥離)へと進行し、視野欠損や視力低下を招いてしまいますので、網膜裂孔や網膜剥離には早急な治療が必要です。
網膜裂孔が発生すると、網膜血管が裂けて出血が硝子体の中に浮遊しますので、飛蚊症の症状がより強く自覚されます。硝子体への出血が多いと、硝子体全体が混濁し、視力が低下します。
他に治療を必要とする飛蚊症として、目の中の炎症(ぶどう膜炎など)による飛蚊症があります。
炎症による飛蚊症は、炎症の進行にともない影の数が増えていきますし、透明だった硝子体が濁り、視力が低下します。
炎症を抑えることで飛蚊症は改善しますので、早めの加療が必要です。
飛蚊症の中には治療を要する疾患が潜んでいる場合があります。
放置せずに、眼科での検査をお勧めします。
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