加齢黄斑変性と抗凝固薬
この研究はTriNetXネットワークが提供している臨床データを利用し、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)までには進行していない非nAMD症例で、抗凝固薬としてワーファリンを服用しているか、あるいは直接経口抗凝固薬(DOACs)を内服しているかで、nAMDへの進行頻度や眼内出血などの発生頻度の違いを比較しました。
TriNetXネットワークは、米国および世界各国の複数の大規模な医療機関で構成される電子健康記録研究ネットワークで、107の医療機関から1億1500万人以上の症例の匿名化された電子健康記録データが集約されています。
本研究の対象は、ワーファリンを開始した13,387人の非nAMD症例と、DOACs(商品名:エリキュース・プラザキサ・イグザレルト・リクシアナ)を開始した20,300人の非nAMD症例で、いずれも服薬開始後6ヶ月以上が経過しています。
その結果、6ヶ月後にはワーファリン内服症例の7.1%、DOACs内服症例の5.7%が非nAMDからnAMDに病状が悪化・進行しました。
1年後には8.8%と6.9%で、いずれもワーファリン内服症例ではDOACs内服症例と比べ、nAMDを発症する割合が高率でした。
さらに、黄斑部に多量の出血をきたしたり、眼球内へも出血(硝子体出血)が及ぶほどの大量出血が生じたり、治療として抗血管内皮増殖因子阻害剤の硝子体注射や硝子体手術の施行を要した症例の割合が、ワーファリン内服症例ではDOACs内服症例と比べ高率でした。
また、解析対象を、心房細動の治療としてワーファリンかDOACsを服用している非nAMD症例に限定しても、nAMDへの進行・多量の黄斑出血・硝子体出血・硝子体注射などの眼科治療の必要性といた頻度がワーファリン服用症例では高率でした。
一方、脳内出血(ワーファリン:1.4% DOACs:1.3%)や消化管出血(ワーファリン:6.5% DOACs:6.1%)といった薬剤服用に伴う全身性出血のリスクの発生頻度に内服薬による違いはありませんでした。
DOACsは、ワーファリンに代わる新しい抗凝固薬として急速に普及しており、ワーファリンよりもDOACsを処方されている患者数が多くなっているそうです。特にエリキュースは非弁膜症性心房細動患者において最も頻繁に処方されるDOACsだそうです。
本研究結果から、DOACsはワーファリンと比較して、nAMD、黄斑出血、硝子体出血、眼科治療のリスクを低減する可能性が示されました。
この結果は、非nAMDを有する患者の抗凝固療法の選択において、ワーファリンからDOACsへの切り替えを検討する根拠となります。
本研究はデータベースを活用した研究ですので、今後は、非nAMDを有し抗凝固療法を必要とする患者を、無作為にワーファリン服用群とDOACs服用群に振り分け、nAMDへの進行状況等を比較することで、DOACsへの切り替えの安全性と有効性の評価が確実なものとなります。このような臨床研究を前向き試験と呼んでおり、より信頼性が高い結果が得られると考えられています。
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