初期・中期加齢黄斑変性に対するフォトバイオモジュレーション
フォトバイオモジュレーション(Photobiomodulation:PBM)は、赤色光や近赤外光を照射することで細胞内に光化学的変化を引き起こし、細胞の増殖や分化を促し、組織の修復・治癒を促進させることを目的に、歯科や形成外科などで行われることがある治療法です。
細胞の中には、エネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)を産生するミトコンドリアという器官があります。
PBMではミトコンドリア内のチトクロームcオキシダーゼという酵素に作用し、ATPの産生増加や、血管を拡張させ血流を増加させる一酸化窒素(NO) の産生を増加させる効果があると報告されています。
昨年11月4日、米国食品医薬品局(FDA)は初期・中期加齢黄斑変性にPBMを施行するための機器を承認しました。
これについてUCLAのSadda教授のコメントが1月24日、JAMA Ophthalmologyの電子版に掲載されました。
FDAの承認は、LIGHTSITE IIIと名付けられた初期・中期加齢黄斑変性の視機能維持、改善、病状進行抑制へのPBMの有効性を検証した第3層臨床試験の結果に基づき審議されました。
LIGHTSITE III試験では、100名弱の症例をPBMを施行するグループと、PBMで使用する光照射強度を50%減少させ施行するグループ、無治療のグループの3群に無作為に分け、13ヶ月の経過を比較しました。
PBMグループは、黄色・赤色・近赤外線光線を1〜3分照射する治療を3〜5週間に9回行い、これを4ヶ月毎繰り返しました。
その結果、PBMを施行することで、新たな網膜萎縮病巣の出現や既存の網膜萎縮病巣の拡大を抑えることができ、視力は平均で視力表の一段階ほどの改善が得られることが明らかとなり、光照射強度を50%減少させたり、無治療のグループと比べ、明らかな有効性が確認されました。
Sadda教授のコメントはPBMについて少々懐疑的な内容でした。
LIGHTSITE III試験の結果について幾つかの疑問点を挙げ、PBMの有効性を確認するには更なるデータの集積が必要であると述べています。
ここ数年は、血管新生型に進行していない加齢黄斑変性への治療法が注目されてきており、幾つかの治療法が報告されています。
軽症で病状を維持し、視機能への影響を最小限に食い止め、日常生活の質を保つための治療法の開発が進行中です。
現在のところ、本邦ではPBMの加齢黄斑変性への治療は認可されておらず、治療に使われる機器の眼科診療機関への紹介はなされていません。
カテゴリー
- お知らせ (11)
- ブログ (428)
- iPS細胞 (19)
- IT眼症 (9)
- OCTアンギオ (8)
- アルツハイマー病 (7)
- アレルギー性結膜炎 (5)
- お困りごと解決情報 (17)
- こんな症状が出たら (35)
- サプリメント (14)
- スタッフから (5)
- ドライアイ (17)
- 中心性漿液性網脈絡膜症 (2)
- 人工知能(AI) (14)
- 加齢黄斑変性 (102)
- 外斜視 (1)
- 抗がん剤による眼障害 (1)
- 白内障 (21)
- 看護からのお知らせ (1)
- 眼精疲労 (12)
- 糖尿病網膜症 (49)
- 紫外線 (2)
- 紫外線、ブルーライト (6)
- 網膜前膜 (3)
- 網膜剥離 (14)
- 網膜動脈閉塞 (8)
- 網膜色素変性症 (7)
- 網膜静脈閉塞 (12)
- 緑内障 (27)
- 色覚多様性 (2)
- 講演会 (28)
- 近況報告 (83)
- 近視予防 (39)
- 飛蚊症・光視症 (14)
- 黄斑円孔 (4)
- 黄斑前膜 (3)
- 未分類 (9)
アーカイブ
最新の記事
- 2025.9.12
- 見え方をデザインする白内障手術――テクニス「オデッセイ」「ピュアシー」のご案内
- 2025.9.7
- サプリメントを“医療”として正しく使う―眼科で効くもの・効かないもの、そして注意点
- 2025.9.5
- 電子処方箋がはじまります
- 2025.8.28
- 目の健康で人生が変わる:世界報告の要点と私たちにできること
- 2025.8.23
- 「注射の回数を減らしながら、見え方を守る」—VEGFを長く抑えるという発想
- 2025.8.17
- 新登場目前 “症状そのもの”に効くドライアイ薬と、“水はけ”を良くする緑内障薬
- 2025.8.10
- 「見える」をもう一度:HOPE Meeting vol.4で感じた視機能再建の現在地
- 2025.8.1
- 「見る」を取り戻す未来へ:イーロン・マスク氏と視覚再生技術の最前線
- 2025.7.28
- 令和7年お盆休みのお知らせ
- 2025.7.27
- サンデグラジェノックス販売終了のお知らせ
サプリメントを“医療”として正しく使う―眼科で効くもの・効かないもの、そして注意点
電子処方箋がはじまります
2025.9.5 お知らせ
目の健康で人生が変わる:世界報告の要点と私たちにできること
2025.8.28 ブログ