小中学生の近視実態調査
文部科学省は7月31日、「令和5年度児童生徒の近視実態調査」の事業結果を公表しました。
裸眼視力1.0未満の児童生徒の割合が昭和54年から一貫して増加傾向にあることや、
社会のデジタル化に伴い児童生徒がICT機器を利用する機会が増え、視力への影響が懸念されること、
また、東アジアを中心に近視人口が爆発的に増加していることなどを背景に、
2021年度から3年間、9都道府県(10市区町村)29校の小中学生8000人以上を対象に、「児童生徒の近視実態調査」が行われました。
北海道は函館市で実施されました。
「児童生徒の近視実態調査」では、近視や乱視の程度、眼軸長(目の長さ)の測定に加え、児童生徒の生活習慣に関するアンケートも実施しました。
3年間追跡可能な約5200人については、3年間の視力の変化などについて検討されました。
今回の結果をもとに、学年ごとの裸眼視力1.0以上の割合と、裸眼視力0.3未満の割合の折れ線グラフを作成しましたのでお示しします。


裸眼視力1.0以上の割合は学年が上がるにつれて減少し、裸眼視力0.3未満の割合は学年とともに増加しているのがわかります。
同一の児童生徒を3年間にわたって追跡した解析では、近視がどの学年で増える傾向にあるかが調べられました。
この結果、最も増えたのは初年度に小学1年生だった児童で、21年度には12.43%だったのが23年度には35.87%と、3倍近くに増えていました。
次いで初年度に2年生だった児童が23.40%から39.66%と増加しており、
小学校低学年で近視になる児童が急増することが明らかになりました。
そこで、視力の変化と生活習慣・学校生活に関するアンケート結果の関連を解析したところ、
「授業・休み時間以外の屋外利用の1日当たりの平均時間」が「30分未満」の児童生徒に比べ、「90分以上120分未満」の児童生徒は視力低下が少ないことが示唆されました。
「学校以外(家庭や塾)でのPCやタブレットの平均使用時間」が「30分未満」に比べて「120分以上」の児童生徒では、視力が低下しやすい結果となりました。
23年度に近視を発症した児童生徒と「学校以外での勉強や読書の1日当たりの平均時間」についての関連では、「30分未満」と比べて「90分以上120分未満」「120分以上」の児童生徒では、近視になりやすいことがわかりました。
今回の調査でも、海外で行われた大規模研究の結果同様に、
屋外活動が近視の発症・進行の予防につながることが確認されました。
文科省はできるだけ外で遊ぶことなどを勧めており、ただし、夏場は熱中症や紫外線に配慮する必要があり、木陰などで過ごすことも考えられるとコメントしています。
タブレット等の電子機器の利用について文科省は、
近視の発症予防には近い所を長時間見る作業に気を付けることが重要だと指摘し、30分以上作業する場合は「対象から30センチ以上、目を離す」「30分に1回は20秒以上、目を休める」「部屋を十分に明るくする」などに気を付けるよう呼び掛けています。
さらに今回の調査ではスマートフォン使用などで目を休めるルールを決めていない児童生徒も多かったことから、「自分の目は自分で守る」意識を持って欲しいと強調しています。
今回の調査は同一の児童生徒を3年間追跡調査し、かつ通常の眼科診療では行わない眼軸長測定(近視の進行に伴い眼軸長が長くなることが知られています)など、近視に関わる詳細な検査を実施しており、学術的にも高い価値があり、この調査結果を有効に活用し、近視発症・予防につながることを期待します。
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