新登場目前 “症状そのもの”に効くドライアイ薬と、“水はけ”を良くする緑内障薬
目薬の世界に、新しい発想の2剤が加わりそうです。
1つはドライアイのヒリヒリ・ゴロゴロといった不快感の発生源を鎮める点眼薬、
もう1つは緑内障で目の中の「水」(房水)の流れを立て直す点眼薬です。
どちらも既存薬とは異なる働き方で、治療の選択肢を広げてくれる期待の新薬です。
新薬その1:SJP-0132(ドライアイ治療薬) “痛みセンサー”TRPV1をオフにする
SJP-0132は、辛味(カプサイシン)や熱に反応するTRPV1受容体を選択的にブロックする点眼薬です。
乾燥や炎症で敏感になった角膜の神経センサーが過剰に反応して「ヒリヒリ」「異物感」を起こす—この“感じるつらさの回路”に直接アプローチするのが最大の特徴です。
国内第III相試験を完了し、2025年1月に日本で製造販売承認を申請済みです。
持田製薬が創製した化合物を千寿製薬が導入し、ドライアイ治療薬として開発しました。販売は武田薬品が担い、強力なマーケティング力で国内・海外展開を視野に入れているそうです。
臨床研究では、自覚症状(痛み・乾燥感)と角膜の傷の指標の双方で優れた改善が示されています。症状改善は、神経経路に直接働く機序と合致する結果です。
SJP-0132が有効と考えられる方は、「しみる・ヒリヒリ・ゴロゴロ」といった痛覚系の症状が強いタイプのドライアイ・検査値はよくてもつらさが残るドライアイです。
既存の人工涙液や分泌促進薬との併用で、症状の改善・生活の質を底上げできる可能性があります。
報告される副作用は主に軽い充血や一過性の刺激感などで、大きな問題点はないようです。
新薬その2:STN1013900=ネタルスジル(緑内障治療薬)―房水の排出・産生・流れやすさをまとめて整える
参天製薬が2025年7月30日、緑内障・高眼圧症を対象に日本で承認申請した点眼薬です(一般名:ネタルスジルメシル酸塩)。1日1回の用法が想定されています。
この薬剤は眼圧を下げる3つの機序を有しており、三刀流であることが特徴です。
・ROCK阻害:眼の排水口「線維柱帯」をゆるめ、房水の出口(流出路)を広げる
・ノルエピネフリン・トランスポーター阻害:毛様体での房水産生を抑える
・上強膜静脈圧の低下:房水が最終的に流れ込む静脈側の詰まりを和らげ、流れやすさを高める
適応となる症例は、まずは既存の第一選択薬で十分に眼圧が下がらない場合、例えば日内や通院間隔での眼圧の変動が気になる症例への追加処方です。
国内試験でも、既存薬との併用で上乗せ効果や長期の眼圧コントロールが示されています。
結膜充血などの軽度の副作用が報告されています。
2025年8月17日の時点では、両点眼薬ともまだ認可はおりておらず、使用することはできません。
どちらも「これまで届きにくかった領域」に届くアプローチの薬剤です。
承認後は、症状のタイプや生活スタイルに合わせて、効かせどころを選ぶ治療が、より現実的になりそうです。
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