内服薬で“黄斑”が傷む?最新研究が示した5つの要注意薬と上手なつきあい方
2025.11.8 ブログ 抗がん剤による眼障害 未分類
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先日、私が企画し中外製薬様にお手伝いいただいている講演会 HOPE Meeting vol.4 を開催し、神戸市立神戸アイセンター病院・理化学研究所の万代道子先生にご登壇いただきました。
テーマは 「視機能再建への挑戦」。最先端の再生医療と眼科臨床が交差する、非常に熱量の高い内容でした。
視細胞が失われると、従来医療では視機能の回復が困難です。この壁を越えるアイデアが 網膜オルガノイド です。
オルガノイドとは、幹細胞から体の一部を“ミニチュア状”に育てた組織。眼科領域では、iPS細胞やES細胞から作成した網膜オルガノイドすることができ、そこに光を感じる視細胞や、それを受け渡す神経回路の“素”が備わります。
万代先生の研究チームはこれを薄いシートに加工し、視細胞が減った網膜へ移植することで、失われた光の回路を作り直すことに挑戦しています。
しかし、網膜に移植した細胞が生き残る(生着)だけでは、見えるようにはなりません。重要なのは、患者さん自身の網膜の神経と新しい視細胞が“つながる”ことです。移植した視細胞が感知した光の情報を患者さん自身の網膜に伝えるために細胞同士の接続(シナプス)が形成されなければなりません。
研究チームは、顕微鏡・電子顕微鏡・電気生理(電気の反応を見る検査)などを活用し、ホスト側(患者側)の双極細胞が伸びて、移植視細胞とシナプスをつくる 様子を丁寧に示してきました。
さらに「どの領域で結合が多いと、網膜全体の応答が上がるのか」といった機能マップまで描き、単なる“細胞移植”から “回路再建” へと議論を押し上げています。
万代先生方のご研究が人への臨床応用へとステップアップするには、安全性の確認が重要です。
万代先生らは、移植後の長期生着をまず確認しながら、従来の視力表だけに頼らない評価を組み合わせています。たとえば、暗いところでどの程度の光を感じ取れるかをみる FST(暗所感度)、低視力者向けの文字認識や固視の評価など、日常の“見え方”に直結する指標を丁寧に積み上げています。こうした包括的評価は、「数字としての視力」では把えきれない 生活の中の見え方の改善を捉えるための大切な試みです。
臨床応用に向けた今後の焦点は、移植片の安定供給と機能的な結合の最大化 だそうです。
供給面では、一定品質のオルガノイド・シートを安定して用意できる見通しが示されました。機能面では、移植片の細胞構成を工夫し、視細胞と双極細胞の“つながりやすさ”を高める設計が検討されています。
この研究の凄さは、最先端の再生医療技術を駆使し、実用的な見えを取り戻す可能性であり、臨床応用に向けて準備されていることです。
もちろん、課題は少なくありません。品質管理とコスト、手術の標準化、適切な患者選定、倫理面の配慮。これらは、医療として広く提供するうえで避けて通れません。だからこそ、私たち臨床側は、正しい情報を患者さんに届け、期待と現実のバランスを保ちながら、臨床現場で使える日を待ちたいと思います。
万代先生のご講演は、再生医療が「夢物語」ではなく、一歩ずつ現実に近づくプロセス であることを、具体的データと臨床の視点で示してくださいました。
HOPE Meetingの主催者として、私たちの使命は明確です。最新の知見を地域医療へ橋渡しし、患者さんの“明日”に役立てる。そのために、次回以降も“希望(HOPE)”の名に恥じない場になればと考えています。
