『星つなぎのエリオ』の“眼帯”:眼科医のまなざしで読むピクサー作品
2025年夏公開のピクサー最新作「星つなぎのエリオ(Elio)」。
宇宙と地球をつなぐ少年・エリオが主人公のこの物語には、私たち眼科医にとって、ちょっと気になることがあります。
それは、主人公エリオの左目にかけられた眼帯です。
アニメーション作品における「眼帯」は、単なるキャラ付けやファッションとして用いられることも少なくないのかもしれませんが、眼科医としてはどうしても「この子の目に何が起きているのだろう?」と想像してしまいます。
今回は、そんなエリオの眼帯を入り口に、眼科医の視点からいくつかの可能性と、眼帯が与える影響について考えてみたいと思います。
小児が眼帯を装用する場合、以下のような目的が考えられます。
1.弱視の治療(遮閉法)
片目の視力が育ちにくい場合、よく見える方の目を“あえて塞いで”弱視側の視力を育てる治療です。特に幼少期に行われます。これが眼帯の一番多い使用目的かもしれません。
2.外傷や感染の治療保護
角膜の外傷や感染、手術後など、眼を保護する必要がある場合にも眼帯を使います。
3.斜視の隠蔽、あるいは外見的理由
視線がずれて見える“斜視”や、見た目に異常がある場合、それを目立たなくするために眼帯を使用することもあります。
エリオの場合、映画の中では眼帯の理由は今のところ明かされていないようです(2025年6月時点)。ただ、ストーリー上は“地球と宇宙をつなぐ使命”を背負わされ、心理的にも葛藤するキャラクターです。眼帯が象徴的な意味を持っているのではと思われます。
実際に片目を塞いだ状態では、どのような見え方になるのでしょうか。
・視野が半分になる
片目では横方向の視野が狭くなります。歩行やスポーツでは物が見えにくくなるため、危険を伴うこともあります。
・立体視ができない
私たちは両目のわずかな視差を使って「奥行き」や「距離感」を把握しています。片目ではそれが難しくなり、物の距離感がつかみにくくなります。
・視力の発達に影響(特に小児)
乳幼児期に片目が使われない状態が続くと、その目の視力が十分に発達しません。これが“感受性期”の問題で、眼科では特に注意するポイントです。
こういった点からも、「小児にとっての眼帯」は単なるアクセサリーではなく、慎重な管理が必要な医療器具なのです。
近年のアニメーション作品では、眼鏡や義眼、眼帯など、視覚に関わるキャラクターが増えていルようです。これには、さまざまな「見え方」や「感じ方」があることを視聴者に伝える、多様性への配慮も感じられます。
エリオの眼帯も、「見えないこと」「不完全であること」が“弱さ”ではなく、“特別な感受性”や“他者とのつながり”に昇華するような演出になっているかもしれません。
これは、実際に視覚に障害をもつ子どもたちにとっても、大きな勇気や共感になることでしょう。
エリオの眼帯が何を意味するのかーーそれは映画の公開を待たなければ分かりません。
ただ、眼帯一つにも、医療的、心理的、そして物語的な多層的意味があることを、改めて考えさせてくれるきっかけとなりました。
「見えること」が当たり前ではないこと。
そして、「見えないこと」にも意味があること。
眼科医として、そしてひとりの映画ファンとして、この物語の行方を楽しみにしています。
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