眼科疾患のリスク因子、診断・治療・予後の検討のための後ろ向き観察研究
2025.10.2 お知らせ
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2025年、米国眼科学会(AAO)は極めて重要な報告を発表しました。
顔面へのヒアルロン酸などの注射は、シワ取りや輪郭形成など美容医療界では日常的に行われています。しかし、AAOの調査によれば、注入剤が血管に誤って入ることで、眼の動脈が塞がれてしまうと、わずか数分で完全失明(無光覚:No Light Perception)に至ることがあります。
ヒアルロン酸注射などの軟部組織フィラー施術後に視覚障害が生じた症例の論文を解析したところ、
198例の報告が確認されました。
注入剤の種類は、
・ヒアルロン酸:164例(83%)
・自家脂肪:29例(15%)
・その他(コラーゲン、ポリ乳酸など):5例(3%)
注射部位の内訳(226部位)は、
・鼻:90例(40%)
・額:56例(25%)
・眉間(グラベラ):26例(12%)
・こめかみ:21例(9%)
特に、顔の中心線上(鼻、額、眉間)での注入で視覚障害が生じていることがわかります。
ではなぜ失明してしまうのでしょうか。
ヒアルロン酸などの注入剤が血管に直接注入されてしまうと、注入剤が逆流し眼動脈を閉塞(眼動脈塞栓または中心網膜動脈閉塞)してしまい、
血流が止まることで網膜が酸素を失い、数分で回復不能な網膜機能の損傷が生じてしまいます。
報告された198例のうち、視力が改善したのは28%、変わらず70%、さらに悪化が2%。
ヒアルロニダーゼ注射や血管内治療、高気圧酸素療法などが試みられましたが、効果は限定的です。
改善した症例は、治療が奏功したというよりは、自然経過としての改善かと思われます。
この論文は、眼科医への警鐘と施術を受ける患者の双方に警鐘を鳴らしています。
眼科医に対しては、美容注射後に視力低下・眼痛・眼球運動障害を訴える患者は、眼科検査による緊急評価と、必要に応じて脳梗塞と同様の血管内治療が可能な施設への転送が求められます。
施術を受ける患者に対しては、ヒアルロン酸注射は気軽に受けられる印象がありますが、誤って血管内に入ると失明のリスクがあり、施術前には医師の資格・経験・緊急対応体制の有無を確認することが求められます。
以下のような症状が現れた場合は、緊急の眼科検査が必要です。
・突然の視界の消失
・見える範囲が急に狭くなった
・黒いモヤが動く
・まぶたが下がる/動かしにくい
・頭痛・めまい・しびれ
約20%の症例で脳梗塞の合併が報告されており、命に関わる危険もあります。
米国眼科学会(AAO)は、全米レベルの症例登録、治療プロトコールの整備、軟部組織フィラー施術者教育の強化を提言しています。
ちなみに、皮膚科領域では注入したヒアルロン酸によると思われる遅発性アレルギー反応の発生が報告されており、こちらの治療はヒアルロニダーゼ注射によるヒアルロン酸の溶解とステロイド内服による消炎が行われるようです。
美容医療においても、施術前には十分な説明が求められると思います。