グリシン内服が近視進行を抑制?
今回ご紹介するInvest Ophthalmol Vis Sci誌に掲載された論文は、復旦大学(上海)の研究グループが近視進行のメカニズムを検討するために、モルモットを用いて行った実験の結果です。
生後2週のモルモットの片目に極めて強い凹レンズ(-20ジオプター)を10日間装着させ、近視を誘発させました。他眼は正常眼として近視眼と比較検討するために用いました。
近視眼では眼球の長さが伸び、眼球壁(強膜)が薄くなります。
この研究では、近視眼での眼球の伸展すなわち強膜の菲薄化のメカニズムを解明するために、強膜内の細胞活動によって生じる代謝産物を網羅的に解析し、近視眼と正常眼の違いを調べました。
その結果、菲薄化した近視眼の強膜では種々のアミノ酸や細胞分裂・細胞増殖に必要な核酸(DNAやRNA)の基本成分であるピリミジンの産生が著しく低下していることが判明しました。
強膜の主な構成成分はコラーゲン線維で、強膜線維芽細胞が産生しています。
グリシンはコラーゲン線維を構成するアミノ酸です。
次にこの研究では、極めて強い凹レンズを装着させたモルモットの餌にグリシンを混ぜて投与しました。
その結果、グリシン投与で眼球伸展が抑制され、近視化も抑えらられました。
結論として論文の研究チームは、
・近視眼では線維芽細胞の細胞分裂や増殖が抑制され、また線維芽細胞がコラーゲンの産生に必要なグリシンが不足しているため、強膜の菲薄化が起こり、眼球の伸展が生じる、
・グリシンの内服による補給で強膜でのコラーゲン線維の合成が高まり、近視進行を抑制できるのでは述べています。
この論文は、近視治療の内服薬の可能性を示唆する斬新で興味深い研究であると思います。
来年、日本では2%アトロピン点眼薬が承認され、眼科診療機関での処方が可能となりそうです。
世界中で近視人口が増えており、近視の予防・進行抑制が課題で、近視予防がトピックスとなっています。
今後も近視界隈は目の離せない分野です。
カテゴリー
- お知らせ (9)
- ブログ (409)
- iPS細胞 (18)
- IT眼症 (8)
- OCTアンギオ (8)
- アルツハイマー病 (7)
- アレルギー性結膜炎 (5)
- お困りごと解決情報 (17)
- こんな症状が出たら (34)
- サプリメント (13)
- スタッフから (5)
- ドライアイ (15)
- 中心性漿液性網脈絡膜症 (2)
- 人工知能(AI) (14)
- 加齢黄斑変性 (98)
- 外斜視 (1)
- 抗がん剤による眼障害 (1)
- 白内障 (19)
- 看護からのお知らせ (1)
- 眼精疲労 (11)
- 糖尿病網膜症 (43)
- 紫外線 (2)
- 紫外線、ブルーライト (6)
- 網膜前膜 (2)
- 網膜剥離 (14)
- 網膜動脈閉塞 (7)
- 網膜色素変性症 (7)
- 網膜静脈閉塞 (11)
- 緑内障 (26)
- 色覚多様性 (2)
- 講演会 (27)
- 近況報告 (82)
- 近視予防 (38)
- 飛蚊症・光視症 (14)
- 黄斑円孔 (4)
- 黄斑前膜 (2)
- 未分類 (8)
アーカイブ
最新の記事
- 2025.4.30
- 小児近視進行抑制治療(リジュセア®ミニ点眼液0.025%)に関するよくあるご質問
- 2025.4.30
- 低濃度アトロピン点眼薬(リジュセアミニ点眼液)による近視進行抑制治療を開始します
- 2025.4.27
- 小児近視に対する赤色光治療に関する最新研究のご紹介
- 2025.4.23
- 新生血管型加齢黄斑変性の治療間隔ってどうやって決めてるの?
- 2025.4.15
- 糖尿病の“見えない”網膜の変化をキャッチする新技術
- 2025.4.6
- 糖尿病患者の血圧管理に新たな指針:厳格な血圧コントロールが心臓と目を守る
- 2025.3.31
- 令和7年ゴールデンウイークの診療について
- 2025.3.29
- 児童・生徒の近視進行を抑える点眼薬が日本でも使用可能に〜低濃度アトロピンとは?〜
- 2025.3.28
- クレジットカード利用時の「暗証番号」必須化について
- 2025.3.22
- 糖尿病網膜症の新しい治療法「ポートデリバリーシステム(PDS)」とは?