飛蚊症と網膜裂孔・網膜剥離
2021年2月のブログで「治療の必要な飛蚊症について」紹介いたしました。
飛蚊症は、目の前に糸くずやタバコの煙のような影が動いて見える症状です。
眼球内の大部分を占める硝子体(しょうしたい)と呼ばれる空間に混濁物があると、混濁物の影が網膜に映り、この影が飛蚊症の症状を引き起こします。
硝子体に浮遊する混濁物の多くは、硝子体の加齢性変化によるものですので、治療を必要としませんが、突然生じた飛蚊症は早急な検査が必要です。
硝子体の加齢性変化が進行すると、網膜と接着している硝子体が網膜から剥がれる後部硝子体剥離という現象が、ある日突然起こります。
後部硝子体剥離が生じると、突然、飛蚊症が強くなります。
後部硝子体剥離も硝子体の加齢性変化なので、本来は加療の対象にはなりません。
ただ、後部硝子体剥離が生じる際に、網膜裂孔や網膜剥離が発生することがあるため、飛蚊症の悪化時は早急な眼科受診の必要性があることをブログで解説しました。
米国眼科学会の機関誌Ophthalmology Retinaに、後部硝子体剥離が発生した9635眼を対象に網膜裂孔や網膜剥離の発生頻度と発生時期について検討したラッシュ大学(シカゴ)の論文が掲載されました。
後部硝子体剥離の発生後に、網膜剥離を伴わない網膜裂孔は16.0%、網膜裂孔から網膜剥離が生じたのが4.2%でした。
これらの合併症の多くは、最初の受診時にすでに発症していたのですが、網膜裂孔の20%、網膜剥離の25%はその後に生じており、その半数は初診後1ヶ月くらいの期間で発生していました。
また、他眼に網膜裂孔や網膜剥離が起こった方は、もう一方の眼に網膜裂孔や網膜剥離が起こるリスクが高いことが確認されました。
さらに、白内障手術の既往がある眼では網膜裂孔や網膜剥離のリスクが高いと報告しています。
以上の結果から、飛蚊症の悪化時は早急に眼科を受診するだけではなく、仮に網膜裂孔や網膜剥離といった合併症が認められなくても、飛蚊症悪化後1ヶ月くらいは眼科を受診をするように勧めています。
さらに、他眼に網膜裂孔や網膜剥離の既往があったり、白内障手術後の場合は、飛蚊症悪化後3ヶ月くらいは眼科を受診をするように勧めています。
後部硝子体剥離は50歳を過ぎると誰にでも起こる現象です。
突然、飛蚊症が悪化したら、すぐに眼科を受診してください。
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