米国食品医薬品局、2億3200万円の薬剤承認
- 2019.5.31
- ブログ
5月24日、日本の厚生労働省にあたる米国食品医薬品局は、脊髄性筋萎縮症と言う遺伝性疾患に対する治療薬を承認しました。
薬剤価格が212万5000ドル(約2億3200万円)と高額に設定されたため、マスコミなどで大きく取り上げられました。
日本と欧州でも年内に承認予定と報道されています。
脊髄性筋萎縮症は、脊髄に存在し筋肉に指令を送る運動神経細胞が徐々に脱落し、筋力低下や筋萎縮が進み、重篤になると呼吸や嚥下も障害される疾患です。
生まれつき運動神経細胞生存(SMN)遺伝子に異常があると、正常なSMNタンパクが作られず、運動神経細胞の働きが悪くなり、脊髄性筋萎縮症を発症します。
重症型では生後6か月頃までに発症し、すぐに運動発達が停止し体を動かすことができなくなり、生命予後も不良です。
従来の治療は、人工呼吸や経管栄養などの対症療法のみでした。
2017年に、正常なSMNタンパクの合成を促す作用の薬剤が承認されました。
この薬は腰の背骨の髄液腔に4~6か月毎の投与が一生涯必要です。
今回承認された薬剤は1回の静脈注射のみで治療が完結します。
薬剤は、正常なSMN遺伝子をベクターと呼ばれるウイルスの殻で包んだ構造をしています。
静脈内に投与された薬剤は、運動神経細胞に取り込まれ遺伝子を修復し、正常なSMNタンパク質が産生されるようになります。
臨床試験では、重症な15名に本剤を静脈投与し、20か月の時点で全員が人工呼吸器などを必要とせず生活することが可能でした。
今回の薬剤は遺伝子治療と定義される治療法で、特定の遺伝性疾患で正常遺伝子をもたない患者の細胞に正常遺伝子を挿入する遺伝子挿入療法です。
一部のウイルスは自らの遺伝子をヒトの遺伝子に挿入することができます。この能力を利用し、治療用の遺伝子をウイルス内に組み込み、ウイルスをヒトの細胞に感染させると、治療用の遺伝子がヒトの遺伝子に挿入されます。
一昨年の暮れのブログで、遺伝性網膜ジストロフィに対する遺伝子治療製剤を米国食品医薬品局が承認したことを紹介しました。
今回の脊髄性筋萎縮症に対する治療薬と同様の遺伝子挿入療法です。
遺伝性網膜ジストロフィに対する治療薬は、両眼使用で85万ドル(約9350万円)です。
30年ほど前、遺伝子挿入療法は将来の臨床応用を夢見た研究室での実験段階でした。
世界中の研究者が地道な研究を積み重ね、遺伝子挿入の技術が確立し、様々な遺伝性疾患への治療応用が可能となってきました。
遺伝子挿入療法の臨床応用は、緒に就いたばかりです。
価格も含め、いろいろな問題を今後も克服し、より良い治療に変遷するものと思います。
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