夜盲症
- 映画館のように明るい所から暗い所に入ると、初めはよく見えませんが、時間の経過とともに目が慣れてきて、暗がりでも段々と見えるようになります。
- これは「暗順応」と呼ばれる現象で、網膜が暗い環境に対応し、弱い光でも感じ取り、物が見えるようになります。
- 暗順応がうまく機能せず、暗い所で見えにくい症状が「夜盲症」です。俗に「鳥目」とも呼ばれています。
- 例えば、「暗い所で見えにくい気がする。父は鳥目だった。でも他には何も症状はない。」と訴えて来院された50歳代の患者さんがおられたとします。
- この訴えから読み取れることは、親子で夜盲症。すなわち遺伝性の疾患である可能性。さらに他に自覚症状がないことから、良好な視力が保たれているのではと推測されます。
- 夜盲症は、先天性と後天性に分けられます。
- 先天性夜盲症は進行性と停止性に分けられます。
- 夜盲症の多くは先天性で、遺伝性の疾患です。
- 先天性進行性夜盲症では一般的に夜盲症に加え、視野の狭まり(視野狭窄)や視力低下が進んできます。
- 先天性進行性夜盲症の代表疾患が網膜色素変性症です。
- 光を感じる網膜の視細胞や網膜色素上皮細胞の働きが徐々に悪くなり、夜盲症や視野狭窄といった症状が出現、進行します。視野の中心部の感度が低下し、視力が悪くなる症例もおられます。
- 一方、先天性停止性夜盲症では、幼児期から夜盲症があるものの進行はなく、暗い所以外ではほぼ普通の日常生活を送ることができます。
- 前述の網膜色素変性症と比べると頻度は少なく、まれな疾患です。
- 後天性夜盲症が生じる代表的な疾患はビタミンA欠乏症です。
- ガンや悪性黒色腫の患者さんの中に、網膜に炎症が起こり、網膜障害のために夜盲症となる方がおられます。
- さて、前述の患者さんにさらにストーリーを加えると、典型的な眼底所見や特殊な検査の結果から網膜色素変性症と診断されました。
- 視野狭窄を認めましたが、中心部の感度は保たれており、視力は良好でした。視野狭窄は長い時間をかけてゆっくりと進行しますので、自覚症状が現れにくかったものと思われます。
- 網膜色素変性症の視野狭窄や視力低下の程度は患者さんによってまちまちです。
- この患者さん(多分、お父さんも)は比較的視機能が保たれており、50歳代という現在の年齢を考えると、生涯を通してさほど不便を感じないのではと期待されます。
- 遺伝歴のはっきりしている患者さんが多いのですが、遺伝歴がはっきりしない方もおられます。
- 夜盲症はさほど頻度の高い症状ではありませんが、「暗い所で見えにくさを感じるようになった」「他の人と比べて暗い場所では見えていないようだ」などの症状があれば、眼科の受診をお勧めします。
- ところで、「鳥目」。
- 確かにニワトリやインコ、身近な鳥は、夜は目を閉じて寝ているイメージです。まさに暗闇に弱い感じですね。
- でもフクロウや渡り鳥。夜行性だったり、夜も空を飛んでいたり。
- 実は多くの鳥は、夜もよく見えるそうですよ。
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