慢性腎臓病は加齢黄斑変性を進行させる
以前から慢性腎臓病や腎機能が低下していると、加齢黄斑変性を発症しやすいという報告がありますが、はっきりとした検証はなされていません。
2019年の調査では、慢性腎臓病の患者は世界中で約6億9,800万人、人口の9.1%と推測されています。
米国眼科学会の機関誌Ophthalmology 6月号に、「腎機能は加齢黄斑変性に関与しているか? アジア眼科疫学協会の検討結果」と題した論文が掲載されました。
この研究では、アジアの国々(シンガポール、中国、インド、韓国、日本、ロシア)で一般住民を対象に行われた10地域の疫学調査の結果を集計し、慢性腎臓病や腎機能低下と加齢黄斑変性との関連性を検討しました。
日本からは、山形県鶴岡市で実施されている鶴岡メタボロームコホート研究の結果がr利用されています。
この研究での慢性腎臓病は、腎臓機能を示すGFR(糸球体濾過量)値が体表面積1.73m2あたり60ml/分未満の症例です。
ちなみに、GFR値が低いほど腎臓の働きが低下していることを示しており、GFR値が90ml/分以上であれば腎機能は正常、GFR値60ml/分未満になると慢性腎臓病の疑いがあり、治療を要するとされています。
アジアの10地域で行われた疫学調査の対象者は5万1253人、平均年齢は54.1歳、慢性腎臓病の方は5079人(9.9%)でした。
加齢黄斑変性は4976人(9.7%)で、早期加齢黄斑変性は4612人(9.0%)、進行期加齢黄斑変性は364人(0,71%)でした。
慢性腎臓病の方が進行期加齢黄斑変性に罹患している割合は、腎機能が正常な方が進行期加齢黄斑変性に罹患している割合と比べ、1.5倍も高率でした。
一方、慢性腎臓病の方が早期加齢黄斑変性に罹患している割合と腎機能が正常な方が早期加齢黄斑変性に罹患している割合に、明らかな違いは認められませんでした。
今回の結果は、腎機能の低下は早期加齢黄斑変性の患者において、加齢黄斑変性の進行を加速させることを示しています。
補体H因子やアポリポプロテインの産生に関与する遺伝子、血圧の調節などに関与するレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の機能亢進が、慢性腎臓病と加齢黄斑変性の発症に影響を与えることが知られており、両疾患には発症に共通の背景があります。
慢性腎臓病では活性酸素を産生する窒素性老廃物の腎臓からの排出が低下するため、体内の酸化ストレスが増加します。
酸化ストレスは、網膜と脈絡膜を境界するブルッフ膜への脂質沈着を促進させ、膜を構成する線維の変性や石灰化をもたらし、ブルッフ膜が脆弱となり、脈絡膜から網膜への血管侵入、すなわち進行期加齢黄斑変性の所見である脈絡膜新生血管を発生させます。
論文では慢性腎臓病と進行期加齢黄斑変性の関連を上述のように考察しています。
慢性腎臓病の加齢黄斑変性患者さんは、加齢黄斑変性の進行を念頭に、きめ細かな経過観察が必要となります。
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