網膜静脈閉塞症は脳卒中/心筋梗塞/死亡リスクが高い
網膜動脈閉塞あるいは網膜静脈閉塞といった網膜血管が詰まり、血流が途絶する疾患は、視機能に重大な障害をもたらします。糖尿病や高血圧、高脂血症、心疾患、加齢に伴う動脈硬化など、身体の血管の病気と関連し発症する方が多いことが知られています。
網膜血管は以前から全身の動脈硬化の評価に使用されており、網膜血管や脳血管・心血管の病的変化は互いに類似していると考えられています。
米国スタンフォード大学などの研究チームが、網膜静脈閉塞症の発症後に脳卒中(脳梗塞・脳出血)、心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺塞栓症が生じるリスクおよび死亡リスクについて検討した論文がAmerican Journal of Ophthalmologyの2024年1月号に掲載されました。
本研究では、電子カルテ情報を活用したグローバル医療データサービス事業を展開するTriNetX社(米国マサチューセッツ州)の医療情報を用い、45,304例の網膜静脈閉塞症患者と年齢や性別、高血圧・糖尿病・高脂血症の有無の割合を合致させた網膜静脈閉塞症を認めない1,207,416例を対照群として、脳卒中や心筋梗塞などの発症について、比較検討しました。
その結果、網膜静脈閉塞症を発症した患者の1、5、10年後の死亡リスクは、対照群と比べ、それぞれ1.30倍、1.22倍、1.08倍で、明らかな増加を示していました。
同様に、1、5、10年後の脳卒中を発症するリスクは1.61倍、1.31倍、1.18倍、
心筋梗塞についてはそれぞれ1.26倍、1.13倍、1.06倍で、網膜静脈閉塞症を発症した患者では脳卒中と心筋梗塞を患うリスクか増加していました。
一方、深部静脈血栓症と肺血栓症については、対照群と比べいずれの時期においても発症リスクに差を認めませんでした。
以上より、網膜静脈閉塞症患者では脳卒中と心筋梗塞の発症リスク、さらには死亡リスクも高く、眼科のみならず全身的な管理を行い、脳卒中や心筋梗塞の予防や早期治療を行うことで、死亡リスクの軽減を図る必要があると結論付けています。
網膜血管は身体の血管の一部分です。網膜血管の不調は全身血管の不調の一症状なのかと思います。
網膜血管の閉塞は目だけの病気とは考えず、全身の検査、管理が必要です。
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