腸内細菌叢と加齢黄斑変性
腸内細菌叢の異常が加齢黄斑変性の発症に関与するという中国からの論文が、ARVO(視覚と眼科学研究協会)の機関誌であるIOVS誌に掲載されました。
腸内細菌叢は大腸に生息している細菌群のことで、約1,000種類の腸内細菌が生息し、その数は100兆から1000兆個にも及ぶと言われています。人の身体は約60兆個の細胞で構成されていますので、腸内細菌叢の細菌数は人体の細胞数よりもはるかに多いことになります。
論文では、腸内細菌叢のロドスピリルムという細菌が加齢黄斑変性の発症や進行に関与することが明らかとなりました。
ロドスピリルムの代謝産物が炎症や免疫反応の制御に関わることが知られており、ロドスピリルムの増加で炎症性の疾患が起こりやすくなることが報告されています。
加齢黄斑変性は網膜での慢性的な弱い炎症反応が発症の誘因と考えられており、炎症反応を促す補体というタンパク質の働きが亢進しています。
論文の結論では、腸内細菌叢のロドスピリルム代謝産物による炎症反応の亢進が加齢黄斑変性の発症や進行に関与しており、腸内細菌叢を整えることで加齢黄斑変性の発症や進行を抑制できるのではと述べています。
これを検証するにはまだ多くの研究が必要ですが、腸内細菌叢と身体の健康状態との関連性が注目されて来ています。
特に自律神経や脳と腸内細菌叢との関連性についての研究は多く、腸内細菌叢とその代謝産物が炎症や免疫反応を介して、自律神経や脳の活動と相互作用を持っていることが報告されています。
例えば、適切に腸が動き腸内細菌叢が安定すると、脳で不安を感じることが抑えられます。逆に、ストレスを感じると、交感神経が優位になり消化機能が低下することで腸内細菌叢のバランスが崩れ、便秘や下痢の原因になります。
今回の研究は、腸内細菌叢と網膜との間に、脳と類似の関係が存在することを支持しており、既に腸内細菌叢の変化が網膜変性疾患や糖尿病網膜症の発症に関与する可能性が報告されています。
腸内細菌叢を整えるために、以下の二つが推奨されています。
・体に良い影響を与える乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌を含む食品、例えばヨーグルトや乳酸菌飲料、漬物などを摂取する。これらの菌は腸内に永続的に存在するわけではありませんので、継続した摂取が必要です。
・腸内に存在する善玉菌を増やす食品、例えば たまねぎ・アスパラガス・大豆・バナナなどを摂取する。
善玉菌を増やすことで悪玉菌の増殖が抑えられ、良好な腸内細菌叢が保たれ、結果として病気の予防につながることが期待されます。
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