2022年米国眼科学会総会
米国眼科学会の年次総会が、9月30日から10月3日までシカゴで開催されました。
昨年同様、今年も研究発表やシンポジウム、討論会などの様子がオンデマンド配信されましたので、これを聴講しました。
網膜硝子体疾患に関する今回のトピックスは、以下の通りです。
1.滲出型加齢黄斑変性と糖尿病黄斑浮腫の治療新薬2年間の治験成績
2.滲出型加齢黄斑変性に対する遺伝子治療の治験成績
3.萎縮型加齢黄斑変性に対する治療薬の治験成績
4.人工知能(A I)による検査結果の診断や判定の有効性に関する研究報告
5.家庭用のポータブル光干渉断層計(OCT)の有用性についての討論
加齢黄斑変性は先進国における視覚障害の主因で、滲出型と萎縮型に分類されます。
滲出型加齢黄斑変性では、病気の発症・進行に重要な役割をする血管内皮増殖因子というタンパク質の働きを抑制する薬剤の眼内注射が標準治療となっており、視機能の維持改善が期待できます。
しかし、年間複数回の眼内注射を長期的に継続しなければならず、薬の効き目が長い薬剤の開発が求められています。
上記の1や2の話題はこの課題を解決するためのもので、
1の新薬は既存の治療薬と比べ、薬効の持続が長く、薬剤の投与回数を減らすことが可能であったという治療2年間の成績が報告されました。
また2は、血管内皮増殖因子の働きを抑える作用を持つタンパク質を産生する遺伝子を眼球壁に注射する治療法で、これにより1回の眼球壁への注射で持続的に治療効果のあるタンパク質が眼内で持続的に作られる可能性があり、新たなコンセプトの治療法です。
一方、萎縮型加齢黄斑変性への有効な治療法は未だ確立されていません。
いくつもの治療法が開発中で、3の治療薬もその一つです。
加齢黄斑変性の初期病変であるドルーゼンには、炎症に関与する補体経路の成分が含まれていて、萎縮型加齢黄斑変性の進行に関わっていることが知られています。
萎縮型加齢黄斑変性の進行抑制を目的に、補体経路の活性化を抑える薬剤の開発が進んでおり、今年の米国眼科学会総会では二つの薬剤の治験成績が報告され、臨床上の意義などについて議論されました。
4については、A Iを搭載した検査機器がいろいろ開発されており、
眼科検査で得られたデジタル画像をA Iが読影し、診断や病状の進行状況の判定を行う有用性が報告されました。
5の家庭用のポータブルOCTですが、これも加齢黄斑変性の治療において、家庭で患者自らが検査を行い、OCT検査の結果に応じて医療機関への受診の必要性を判定することで、受診回数を減らし、通院負担を軽減しようという試みです。
OCTは眼底の断層像を迅速・簡便に得ることができる検査装置で、網膜硝子体疾患の診療には欠かせない検査です。
持ち運び可能な小型のOCTが開発され、自宅での検査が可能になりました。
ここ数年間、網膜硝子体疾患領域の話題の中心は加齢黄斑変性で、今年の総会も同様の傾向でした。
日本と同様に米国でも高齢化が進んでおり、加齢黄斑変性は患者が多く、視機能障害の主要な原因疾患であり、今後もいろいろな角度から研究・検討がなされ、診療の向上がもたらされると期待されます。
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