令和3年度児童生徒の近視実態調査の結果
6月24日、文部科学省は「令和3年度児童生徒の近視実態調査」の結果を公表しました。
この調査は、令和3年から3年程度の継続実施が予定されており、
近視が進行する年齢の小中学生(全国29校、約8,600名)を対象に、
眼科専用機器を用いて近視の状況を正確に測定し、同時にアンケート調査も行い、
近視の正確な実態や生活習慣との関係、近視の予防方法を明らかにすることを目的にしています。
具体的には、次の検査や情報収集が行われています。
・屈折異常(近視・遠視・乱視)の有無や程度を計測
・眼軸長(目の長さ)などの測定
・学校健診の結果から裸眼視力・矯正視力・身長・体重などのデータ収集
・児童生徒向けアンケートで生活習慣(屋外活動やデジタル機器使用時間など)について情報収集
・学校アンケートによる学校生活(パソコンやタブレットなどのデジタルデバイス導入率や近業作業中の休息指導など)に関する情報収集
令和3年度の調査結果の概要は以下のとおりです。
1.裸眼視力の状況
・裸眼視力1.0未満の割合は、小学生が32.9%、中学生が54.7%でした。
・調査対象地域の中で相対的に屋外に出られにくい等の環境要因が想定される地域や都市部で、裸眼視力1.0未満の割合が高い傾向でした。この原因として、冬の積雪などの環境要因のため屋外にあまり出られないことや、都会特有のライフスタイルとして屋外活動時間が少ないことが可能性として挙げられます。
・裸眼視力1.0以上の割合は、小学1年では約8割でしたが、学年が上がるにつれ減少し、中学3年では約4割に低下していました。逆に裸眼視力1.0未満の割合は、小学校1年男児20.50%、女児21.11%、小学校6年男子46.72%、女子53.74%、中学校3年男子57.54%、女子64.86%と年々増加していました。
・さらに裸眼視力0.3未満の割合は、小学1年では1~2%(男子1.0%,女子1.67%)でしたが、中学3年では約3割(男子25.52%、女子35.61%)まで急増していました。この傾向は男子よりも女子に顕著で、義務教育の9年間に女子の視力不良者が著しく増加することが改めて確認されました。
2.近視の状況
・学年が上がるにつれて近視の進行が認められました。
・近視の度数のばらつきは、学年とともに増加しており、遠視・正視(屈折異常がない状態)を保つ子供もいれば、強度の近視に至る子供も存在すると推測されました。
・近視度数のばらつきは女子に顕著でした。
3.眼軸長などの変化について
・眼軸⾧は小学校1年生から中学校3年生までの全学年において、女子より男子の方が⾧く、学年が上がるにつれて眼軸⾧は⾧くなるものの、変化量は緩やかになっていました。
・近視の要因として、眼軸⾧の伸びが重要な要素と推察されています。
・乱視は学年とともにわずかに増加しますが、小学生の間の乱視変化は少なめでした。
4.屈折矯正の状況
・眼鏡装用者は小学校低学年では10%前後で、小学校高学年になると20~30%となり、中学生になるとコンタクトレンズ(CL)装用率が増えるため、眼鏡のみの装用率はほぼ横ばいか微増程度でした。
・眼鏡装用率は、小学校低学年では男女ほぼ同率でしたが、小学校高学年・中学生になると男子より女子で高率でした。
・CL装用者は小学校高学年から徐々に増え、中学生では女子に多い傾向であした。
・眼鏡・CL装用率を合わせると、中学3年生では男児は約40%、女児では約50%に達していました。
今回の調査は、全国規模で日本の学童近視の実態を評価するための基礎データを収集することができており、次年度以降は、本年度得られた眼科学的基礎データとアンケート調査の結果を統計学的に解析し、より詳細な報告書を作成する予定とのことです。
社会のデジタル化に伴い、児童生徒がパソコンやタブレットなどのデジタルデバイスを使用する機会が増加しており、ギガスクール構想やデジタル教科書の使用なども背景に、デジタルデバイスの使用による視力への影響が懸念されています。
今回の調査結果に基づき、有効な近視予防対策が示されることで、日本における児童生徒の近視の増悪が阻止されることを期待します。
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                    理事長・院長