白内障手術後のメラトニン分泌増加
先日、米国医師会の機関誌JAMAの姉妹誌であるJAMA Ophthalmologyの電子版に、白内障手術前後でのメラトニン分泌の変化に関する奈良県立医大眼科の論文が掲載されました。
メラトニンはヒトを含めた動物の季節のリズムや日内リズムの調節作用を持つホルモンで、脳の松果体で作られます。
眼の中の網膜に届いた光刺激の情報は、松果体に伝達されます。
昼間の明るい光によってメラトニンの分泌は抑制され、夜間は分泌量が昼間の十数倍に増加します。
このメラトニン分泌の日内変動が、身体の日内リズム形成に大切な働きをしています。
夜間労働等で日内リズムに変調をきたすと、うつ病や不眠症、糖尿病、肥満、メタボリック症候群になりやすいことが報告されています。
白内障の進行により網膜に届く光の量が少なくなり、メラトニン分泌量に影響が出る可能性が示唆されています。
今回の研究では、夜間のメラトニン分泌量を反映する早朝尿のメラトニン濃度を測定しています。
白内障手術前と術後3か月目の早朝尿メラトニン濃度の変化量と(75例)、手術を受けていない白内障患者(83例)の初回と3か月後に測定した早朝尿メラトニン濃度の変化量を比較しました。
その結果、白内障手術を受けた患者の早朝尿メラトニン濃度変化量は、手術を受けていない白内障患者の変化量と比べ、明らかに増加していることが判明しました。
白内障の治癒により、日中に網膜に届く光刺激が増加し、メラトニン分泌の日内変動が改善、夜間のメラトニン分泌増加につながったと推察しています。
メラトニンは抗酸化作用や抗炎症作用を有しており、メラトニンの分泌増加は筋肉増強や動脈硬化予防につながることや、糖尿病・心筋梗塞の発症リスクを下げることなどが報告されています。
以前のブログで「白内障手術を受けた方は認知機能障害のリスクが低く、視力が悪いと認知機能障害の発生が高まる」ことを紹介しました。
白内障手術は、白内障が治ることで視力の改善や、近視や遠視を改善させる効果があります。
さらに、メラトニン分泌の増加により、種々の全身疾患の予防にもつながる可能性がわかってきました。
白内障手術はアンチエイジングにつながりそうです。
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