他人のiPSで網膜移植
- 2月1日、他人のiPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞を加齢黄斑変性の患者に移植する世界初の臨床研究計画が、厚生労働省の再生医療等評価部会に了承されました。
- 今回の臨床研究計画は、2014年9月12日、患者自身のiPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞移植を世界で初めて行った神戸市立医療センター中央市民病院から提出されました。2017年前半にも、最初の患者に移植される見通しで、中央市民病院と、共同で研究する大阪大で患者5人に移植する予定とのことです。
- 中央市民病院では2014年9月12日の成功を受け、2例目の患者に対しても、患者自身のiPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞の移植に向け、準備していました。
- ところが作製したiPS細胞に、がん(癌)発生に関連する可能性のある遺伝子変異が見つかり、治療が見送られました。
- iPS細胞から作製した細胞は、がん細胞のように異常な増殖をする可能性がゼロではないことが危惧されています。
- そこで厚労省研究班の基準では、患者に移植する目的のiPS細胞とそれから作製した細胞や組織について、がんとの関係が指摘されている615個の遺伝子の異常などを調べ、がん化の可能性がないことを確認することが求められています。
- この厳しい基準を満たして初めて患者への使用が認められるわけです。
- ところが615個の遺伝子。正常な方でも複数個の遺伝子に変異が見つかることは珍しくありません。
- そうなると、患者自身のiPS細胞に遺伝子変異が見つかる可能性があり、全ての患者が自身のiPS細胞を使用できるとは限りません。
- そこで、厳しい基準を満たした安全なiPS細胞を備蓄し、このiPS細胞から網膜色素上皮を作成しようと言う訳です。
- 実はこの「他人のiPSで網膜移植」については、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞された山中伸弥先生へのインタビュー記事に関する昨年7月のブログで取り上げました。
- 山中先生らの研究チームがわずか2年足らずで、他人のiPS細胞の臨床使用を可能にされました。
- これには研究チームのご努力と厚労省側の対応の迅速化も貢献していると思われます。期待の高まるiPS細胞の臨床応用拡大に向け、官民あげて取り組んでおられます。
- 「先生、iPS細胞認可されたんだって?俺はもう爺さんだから、どうかな?」と、70歳台前半の加齢黄斑変性の患者さん。
- 「10年経ったら治療は大きく進歩しています。健康に気をつけて、一緒に未来を見ることにしましょう。」
カテゴリー
- お知らせ (12)
- ブログ (434)
- iPS細胞 (19)
- IT眼症 (9)
- OCTアンギオ (8)
- アルツハイマー病 (7)
- アレルギー性結膜炎 (5)
- お困りごと解決情報 (17)
- こんな症状が出たら (35)
- サプリメント (14)
- スタッフから (5)
- ドライアイ (17)
- 中心性漿液性網脈絡膜症 (2)
- 人工知能(AI) (14)
- 加齢黄斑変性 (105)
- 外斜視 (1)
- 抗がん剤による眼障害 (1)
- 白内障 (21)
- 看護からのお知らせ (1)
- 眼精疲労 (12)
- 糖尿病網膜症 (50)
- 紫外線 (2)
- 紫外線、ブルーライト (6)
- 網膜前膜 (3)
- 網膜剥離 (15)
- 網膜動脈閉塞 (8)
- 網膜色素変性症 (7)
- 網膜静脈閉塞 (12)
- 緑内障 (28)
- 色覚多様性 (2)
- 講演会 (28)
- 近況報告 (83)
- 近視予防 (39)
- 飛蚊症・光視症 (15)
- 黄斑円孔 (4)
- 黄斑前膜 (3)
- 未分類 (9)
アーカイブ
最新の記事
- 2025.10.26
- 「血糖だけ」じゃ足りない。低血糖も怖い: J-DOIT3が教える、網膜症予防の新常識
- 2025.10.17
- 点眼で加齢黄斑変性は治せる?最新研究が教えてくれる「期待」と「限界」
- 2025.10.11
- 散瞳検査と急性緑内障発作のリスク~瞳を広げる検査は安全なの?~
- 2025.10.3
- 飛蚊症や光が見えたら…「網膜剥離」になる前に知っておきたい目のサイン
- 2025.10.2
- 眼科疾患のリスク因子、診断・治療・予後の検討のための後ろ向き観察研究
- 2025.9.27
- 「進行は止められるのか?」─地図状萎縮の新治療と、患者たちの選択
- 2025.9.20
- 萎縮型加齢黄斑変性に治療薬「アイザベイ」
- 2025.9.12
- 見え方をデザインする白内障手術――テクニス「オデッセイ」「ピュアシー」のご案内
- 2025.9.7
- サプリメントを“医療”として正しく使う―眼科で効くもの・効かないもの、そして注意点
- 2025.9.5
- 電子処方箋がはじまります



理事長・院長