近視の進行を抑える低濃度アトロピン点眼
今年の2月28日、参天製薬株式会社は、近視の進行を抑えるアトロピン硫酸塩水和物点眼液0.025%の製造販売承認を厚生労働省に申請しました。
年内あるいは年明け早々に、この低濃度アトロピン点眼薬に対する製造販売が認可される見通しです。
低濃度アトロピン点眼薬は、近視進行の抑制を目的に、参天製薬とシンガポールの国立眼科・視覚研究所(SERI)が共同開発しました。
近視は眼の長さ(眼軸長)が長くなることで、目の中に入った光が網膜よりも手前に焦点を結んでしまい、網膜に映る映像がぼやけてしまう状態です。

近視が進行するほど光が焦点を結ぶ位置と網膜の距離が離れてしまうため、裸眼の視力が悪くなります。
(メガネやコンタクトレンズの度数を調整し、目の中に入った光が焦点を結ぶ位置を網膜に合わせることで、網膜に映る映像のぼやけが解消され、見え方が良くなります。)
アトロピンは、眼の壁が延びて眼軸長が長くなるのを抑える作用があることが知られいます。
低濃度アトロピン点眼薬は、シンガポールや台湾、中国などの研究で近視発症の予防や、近視進行予防の効果が確認されています。
今回の承認申請のために参天製薬が国内で行った臨床研究は、5~15歳の近視の小児を対象として行われました。
その結果、低濃度アトロピン点眼薬を24カ月使用した小児は、点眼薬を使用していない小児と比べ、眼軸長の伸びが明らかに抑えられ、近視の進行を抑える効果が確認されました。
さらにこの点眼薬の効果は3年間にわたり持続することが示され、明らかな副作用は認められませんでした。
さらに今年8月のブログでも、学年が上がるにつれて近視の割合が増えることをお伝えしました。
近視のお子さんの増加は、屋外活動時間の減少や、デジタル機器の使用など近くを長時間見る作業の増加などが原因と考えられています。
眼球が長くなり、強度の近視にまで進行すると、病的近視に進行する恐れがあり、
病的近視に特有な眼底疾患である近視性脈絡膜新生血管、網脈絡膜萎縮、近視性牽引黄斑症、近視性視神経症といった視機能が大きく損なわれる疾患が起こりやすくなります。
近視は、メガネやコンタクトレンズで矯正すれば視力が出ますので、あまり問題視されていませんでしたが、視機能が損なわれる目の病気にかかりやすくなりますので、近視進行の予防が求められます。
低濃度アトロピン点眼薬は、近視の進行を抑制すること、さらには病的近視に伴う成人期での視機能障害を未然に防ぐことができるものと期待されます。
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