たばこと加齢黄斑変性 ― 日本の30年データが教えてくれること
「たばこは肺や心臓に悪い」という話はよく知られていますが、実は目にも大きな影響を与えることが分かっています。
特に関係が深いのが、加齢黄斑変性(AMD)という病気です。これは網膜の中心部である黄斑が傷む病気で、高齢者の視力低下や失明の大きな原因の一つです。
まず、加齢黄斑変性による視覚障害の患者数は増えています。
1990年には約3万6千人だった患者数が、2021年には約9万3千人まで増えました。これは約160%の増加です。
一見すると悪化しているように思えますが、実はこれは日本の高齢化の影響が大きいと考えられています。
高齢者が増えれば、この病気の患者が増えるのはある意味自然なことです。
一方で、人口構造を補正して計算した「年齢調整有病率」という指標では、実際には病気の負担は少しずつ減っていることが分かりました。
つまり、日本では高齢化によって患者数は増えているものの、同じ年齢で比較すると、以前より視覚障害は減ってきているのです。
その理由として考えられるのが、医療の進歩です。
日本では2000年代以降、光干渉断層計(OCT)という検査機器が広く普及し、加齢黄斑変性を早期に発見できるようになりました。
また、抗VEGF薬という注射治療が登場したことで、多くの患者さんの視力を守ることができるようになっています。
さらに日本ではこれらの検査や治療が健康保険で受けられるため、医療へのアクセスが良いことも大きな要因と考えられています。
そしてもう一つ、重要な結果があります。
それは喫煙による影響が大きく減っているという点です。
1990年には、加齢黄斑変性による視覚障害の約15%が喫煙に関連していると推定されていました。
しかし2021年にはその割合が約10%まで減少していました。
つまり、喫煙が原因と考えられる視力障害は30年以上で約3分の1減ったことになります。
この背景には、日本で進められてきたたばこ対策があります。
たばこ税の引き上げ、公共施設での禁煙、健康教育などにより、日本の喫煙率は大きく低下しました。
2005年には約25%だった成人喫煙率は、2022年には約15%まで下がっています。
こうした社会全体の取り組みが、目の病気の予防にもつながっているのです。
ただし安心できるわけではありません。
研究では、2040年には加齢黄斑変性による視覚障害の患者数がさらに40%以上増えると予測されています。
これはやはり高齢化の影響です。特に70歳以上で病気の頻度が急激に増えることが分かっています。
つまり、これからの社会は「患者数は増えるが、予防と治療で視力を守ることが重要になる」という時代になると考えられます。
加齢黄斑変性は完全に防げる病気ではありません。
しかし、喫煙は確実にリスクを高める生活習慣です。
研究によれば、喫煙者は加齢黄斑変性になる危険性が非喫煙者の約3倍になると報告されています。
逆に言えば、禁煙は目を守る大きな一歩になります。
目は「体の窓」とも言われます。
健康な生活習慣は、心臓や脳だけでなく、視力を守ることにもつながっています。
年齢を重ねても大切な視力を守るために、生活習慣を見直すことの重要性を改めて感じさせてくれる研究と言えるでしょう。
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