ドラッグデリバリーシステムと黄斑部毛細血管拡張症
- 2019.8.18
- ブログ
ドラッグ・デリバリー・システムとは、薬剤を的確に体内に届けるための方法です。
従来の内服や注射、あるいは点眼といった投薬方法よりも効率よく薬剤を体内に届けることで、薬剤効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑えることを目的とした技術です。
今年に入り、網膜疾患治療のためのドラッグデリバリーシステムがいくつか報告されています。
今年2月、米国の厚生労働省に相当する食品医薬品局(FDA)は、2型特発性黄斑部毛細血管拡張症に対する治療薬として、Neurotech社が開発した新たなドラッグデリバリーシステムの薬剤を承認しました。
2型特発性黄斑部毛細血管拡張症は、40〜50歳の欧米人2万人に一人位が発症する比較的まれな疾患ですが、網膜中心部である黄斑が両眼性に徐々に障害され、視機能障害が進行します。
黄斑部の視細胞などの網膜細胞が障害され、網膜構造が損なわれ、その結果、黄斑部毛細血管が変性します。
現時点では確立された有効な治療法はありません。
Neurotech社が開発した薬剤は、小さな物質やイオンのみが通り抜けることができる半透膜と呼ばれる薄膜で出来たカプセルの中に網膜色素上皮細胞が封入されています。
この薄膜カプセルを目の壁に埋め込みます。
網膜色素上皮細胞は、毛様体神経栄養因子という網膜細胞を保護し機能を維持する作用のタンパク質を分泌します。
薄膜カプセルの薬剤から持続的に毛様体神経栄養因子が眼内に放出され、黄斑部の網膜細胞を保護し、2型特発性黄斑部毛細血管拡張症による障害の進行を抑制することが可能です。
本薬剤はこれまで治療法がなかった2型特発性黄斑部毛細血管拡張症に対する治療薬であるという点において秀逸であるのみならず、
細胞が作り出すタンパクを薬剤として用いる点
斬新なドラッグデリバリーシステムであることなど、創薬のアイデアに感心させられます。
2年前の米国眼科学会で、本薬剤で加療した2型特発性黄斑部毛細血管拡張症48眼の2年成績が報告され、視機能の維持や網膜構造障害の進行抑制などの効果が確認されています。
現在、さらに大規模な検証研究が行われており、2021年に評価が出る予定とのことです。
カテゴリー
- お知らせ (9)
- ブログ (409)
- iPS細胞 (18)
- IT眼症 (8)
- OCTアンギオ (8)
- アルツハイマー病 (7)
- アレルギー性結膜炎 (5)
- お困りごと解決情報 (17)
- こんな症状が出たら (34)
- サプリメント (13)
- スタッフから (5)
- ドライアイ (15)
- 中心性漿液性網脈絡膜症 (2)
- 人工知能(AI) (14)
- 加齢黄斑変性 (98)
- 外斜視 (1)
- 抗がん剤による眼障害 (1)
- 白内障 (19)
- 看護からのお知らせ (1)
- 眼精疲労 (11)
- 糖尿病網膜症 (43)
- 紫外線 (2)
- 紫外線、ブルーライト (6)
- 網膜前膜 (2)
- 網膜剥離 (14)
- 網膜動脈閉塞 (7)
- 網膜色素変性症 (7)
- 網膜静脈閉塞 (11)
- 緑内障 (26)
- 色覚多様性 (2)
- 講演会 (27)
- 近況報告 (82)
- 近視予防 (38)
- 飛蚊症・光視症 (14)
- 黄斑円孔 (4)
- 黄斑前膜 (2)
- 未分類 (8)
アーカイブ
最新の記事
- 2025.4.30
- 小児近視進行抑制治療(リジュセア®ミニ点眼液0.025%)に関するよくあるご質問
- 2025.4.30
- 低濃度アトロピン点眼薬(リジュセアミニ点眼液)による近視進行抑制治療を開始します
- 2025.4.27
- 小児近視に対する赤色光治療に関する最新研究のご紹介
- 2025.4.23
- 新生血管型加齢黄斑変性の治療間隔ってどうやって決めてるの?
- 2025.4.15
- 糖尿病の“見えない”網膜の変化をキャッチする新技術
- 2025.4.6
- 糖尿病患者の血圧管理に新たな指針:厳格な血圧コントロールが心臓と目を守る
- 2025.3.31
- 令和7年ゴールデンウイークの診療について
- 2025.3.29
- 児童・生徒の近視進行を抑える点眼薬が日本でも使用可能に〜低濃度アトロピンとは?〜
- 2025.3.28
- クレジットカード利用時の「暗証番号」必須化について
- 2025.3.22
- 糖尿病網膜症の新しい治療法「ポートデリバリーシステム(PDS)」とは?