「高い枕は目に良い?」― 緑内障と寝る姿勢の意外な関係
「枕を高くして寝ると、目の圧(眼圧)が下がるらしい」
そんな話を聞いたことがある方がおられるかもしれません。
特に緑内障の患者さんは、「少しでも眼圧に良いことをしたい」と考え、
寝る姿勢を工夫されている方も多いと思います。
ところが最近、“高い枕で寝ることが逆に眼圧を上げてしまう可能性”を示した興味深い研究が報告されました。
緑内障と眼圧の関係
緑内障は、視神経が少しずつ障害され、視野が狭くなっていく病気です。
日本人の中途失明原因の上位でもあり、40歳以上では20人に1人程度にみられるとされています。
その中で、現在もっとも重要な治療ターゲットとされているのが「眼圧」です。
眼圧が高い状態が続くと、視神経に負担がかかりやすくなるため、点眼薬やレーザー、手術などで眼圧を下げる治療を行います。
実は眼圧は、一日の中でも変動しています。
特に夜間や寝ている時に上がりやすいことが知られており、最近では「睡眠中の姿勢」も注目されるようになってきました。
「高い枕なら良いのでは?」という発想
これまでの研究では、ベッドの上半身側を少し起こした“リクライニング姿勢”で眼圧が下がる可能性が報告されていました。
そのため、「枕を高くして寝れば眼圧に良いのでは?」と考えるのは自然な流れです。
今回の研究では、緑内障患者さん144人を対象に、
・普通に仰向けで寝た状態
・枕を2個使って頭を20〜35度ほど高くした状態
この2つで眼圧を比較しました。
結果は“逆”、予想外の結果となりました。
高い枕で寝た方が、
・眼圧が高くなる
・眼圧の変動が大きくなる
・目の血流に関係する「眼灌流圧」が低下する
という結果になったのです。
しかも、約3分の2の患者さんで眼圧上昇がみられました。
「高い枕=目に良い」と単純には言えない可能性が出てきたわけです。
なぜ高い枕で眼圧が上がるの?
研究では、その理由についても調べています。
ポイントは「首の角度」です。
高い枕を使うと、頭だけが持ち上がり、首が前に曲がった姿勢になりやすくなります。
すると、首の静脈(頸静脈)が圧迫され、目から流れ出る水(房水)の循環が悪くなる可能性が考えられています。
実際に超音波検査では、高枕姿勢で首の静脈が細くなっていることが確認されました。
つまり、「頭を高くしたこと」そのものではなく、“首が曲がること” が問題かもしれない、というわけです。
では、どうすればいい?
この研究だけで、「高い枕は絶対ダメ」と断定することはできません。
ただ少なくとも、
・首が強く曲がる寝方
・ソファで首を折り曲げて寝る
・枕を重ねすぎる
などは、緑内障患者さんではあまり好ましくない可能性があります。
逆に、上半身全体をゆるやかに起こすような姿勢は、別の研究では眼圧低下に有利という報告もあります。
つまり、“頭だけを持ち上げる” のではなく、“体全体の角度” が重要なのかもしれません。
日常生活も緑内障治療の一部
緑内障治療というと点眼薬のイメージが強いですが、最近は睡眠、血流、姿勢など、日常生活との関係も少しずつ研究されています。
もちろん基本は「きちんと点眼を続けること」です。
その上で、
・横向きばかりで寝ない
・首を圧迫しすぎない
・無理な寝姿勢を避ける
こうした小さな工夫も、将来的には眼圧管理の一助になるかもしれません。
“寝方”まで研究される時代になったのだな、と感じさせる、とても興味深い研究でした。
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理事長・院長